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アトランティスを統治したというポセイドン神 |
壮大なスケールの超大作を楽しむ方法
さまざまなジャンルがあるマンガの中で、SFモノは大人気です。
星間戦争で、カッコいいスペースシップやロボットが激しい戦闘を繰り広げたり。
現代や過去、未来に存在する主人公がタイプスリップして大騒動を起こしたり。
SFジャンルでもたくさんのテーマがあって、おもしろいストーリーが展開されています。
それだけにファンの目は肥えている。ありきたりなテーマじゃ満足できない人もいる。
「日本のSFマンガで、名作はなんですか?」
「独特の世界観で、難解なストーリー設定のSFマンガはありますか?」
「難解なSFマンガを一度読んでみたいけど、オススメはありますか?」
そんな声がけっこう多いんです。
当ブログが、SFモノの目利きたちにオススメするのが「百億の昼と千億の夜」。
主テーマは「神」とはいったい何者なのか? 彼らはどこからやってきたのか?
1970年代後半に発表された作品ですが、感心してしまうほどの知識と情報が満載。
古代史、宗教、神学、哲学。宇宙物理学、数学、量子論 。さらにはバブル宇宙論。これらがベースで超時空かつ壮大なストーリーが展開。
令和の今だからこそ読んだら「これが昭和の作品なの⁉︎」と驚き、新しく感じるんです。
そして難解。ホント、むずかしい。でもメチャクチャおもしろい。
この記事では、このSF超大作を分かりやすく紹介&解説。ストーリーのテーマとなっていて、楽しむためのポイント、
- 古代史上の偉人・聖人・鬼神が「神」を疑うショッキングなテーマ。
- 「神」はなぜ無慈悲で救いの手を差し伸べないのか?
- 覚醒した聖人・鬼神たちが「神」を追いかける。
- 「神」は「正」なのか「邪」なのか?
上記の4つのポイント=魅力について詳しく説明していきます。
記事を読めば「難解なSFマンガが読みたい」という方はナットク&マンゾク。ストーリーの理解への参考になり、ページを開きたくなりますよ。
「百億の昼と千億の夜」とは

原作はSF作家の光瀬龍さん。1965年から翌年まで「SーFマガジン」で連載。上の写真は小説版の表紙です。
古代インドの王家から出家したシッタータ(釈迦)。ヒロイン阿修羅王とともに「神」の正体を追い求める主人公です。そしてマンガ版。女流マンガ家の第一人者で、たくさんのSF作品を発表している萩尾望都さんが作画。
「少年チャンピオン」で1977年から翌年まで掲載されました。
小説、マンガともに単行本と文庫本が長く発売。マンガ版は2022年7月16日に大判サイズの「完全版」も刊行、電子書籍版も発売中です。
物語の誕生から、実に50年以上が経過しています。でもコンセプトは古さを全く感じない。
「昭和のころに、こんな話が作られたのか⁉︎」と驚いてしまう。
令和のいま読めば、新しさを感じるほどの名作です。
1.古代史上の偉人・聖人・鬼神が「神」を疑うテーマのショッキング性
★主な登場人物
まずは作品について説明します。
主人公はインドの鬼神でヒロインの阿修羅王、仏教の開祖シッタータ(釈迦)。そしてギリシャの哲学者プラトン。
さらに海神ポセイドン。キリスト教の「神の子」イエス。 大天使ミカエル。仏教の梵天、帝釈天。
古代のビッグネームが、これでもか!というくらい登場します。
★あらすじ
古代の聖人や人々は「神」の恵みに感謝し敬い、怖れ、幸せと導きを求めてきた。だが神に一心に祈っても、人の世から病、戦い、死の恐怖がなくならない。「神よ、わが叫び、祈りは届いていますか?」。そんな悲痛な祈りの声が流れる中、歴史上で「鬼神」とされた阿修羅王が「神」に疑問を抱く。「神」とは何者なのか? 確かめるため戦いを起こした彼女にシッタータ、プラトンらが行動を共にする。阿修羅王たちは「神」の刺客と死闘を展開。時空の果てまで「神」を追いかけ続ける。
まさに時空を超えた壮大なストーリー。
その光瀬さんの原作を、萩尾さんがマンガで色付けして読者にストーリーをイメージさせてくれる。
小説版とマンガ版は、そんな相関関係にあります。
2.「神」はなぜ無慈悲で救いの手を差し伸べないのか?
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苦しむ人々に神の救いの手はあるのか? |
「神は慈悲深く、苦しむ人を必ず救ってくれる絶対者」
昔も今も、人々は「神」をそう信じて敬い、恐れてきました。
ストーリーの最初のエピソードとなる伝説の島・アトランティスで起こった悲劇。
これが、阿修羅王たちが「神」に疑問を持つきっかけとなります。
このエピソードが描かれた第1章は、実にショッキングです。
海神ポセイドンの導きで、盛大に栄えるアトランティス。突然、海神は島を神の国「アトランタ」へ移動させると宣告。指導者たちは反対する。海神は「惑星開発委員会の決めたことで変更はできない」と主張。空に巨大な闇が現れ、島を包み込む。怒りで暴徒と化した民衆が島中に放火。闇の進行は止まったが島半分が消滅。島は大地震や炎に襲われ、崩壊する。司政官・オリオナエは「神ならば、なぜわれわれをこんな目にあわせるのだー!」と悲痛な声を上げる。オリオナエは古代ギリシャに転送され、哲学者プラトンとして活躍。プラトンは神への疑問を抱き、戦士と巡り合うため何千年もの時間の旅に出る。
「アトランティス」の名前を、後世に残したのはプラトンでした。
伝説では、島は大西洋上に存在したが神の怒りに触れ、一夜にして海中に没したとされます。
しかし、この悲劇の島の実在は証明されていません。もし存在したのなら、なぜ消えてしまったのか?
誰もが知りたい古代のナゾ。作品では、この答えをストーリーの冒頭で展開して解釈。
さらに「神」の無慈悲で、人々の声が届いていないかのような沈黙ぶり。
そして抱く「神」への疑問というテーマを、読者へ明らかにしているんです。
ホント心にくい、うますぎる世界観とストーリー展開です。
3.覚醒した聖人・鬼神たちが「神」を追いかける
ポセイドン、梵天、帝釈天、さらにはナザレのイエス(キリスト)。
「仏陀」として後世に名を残す、仏教の開祖で聖人。インドの小国を統べる王家の後継者でした。でも、
「なぜ人の世には苦しみばかりあるのか」。
シッタータはつねに疑問に思い、やがて出家を決意します。シッタータの物語は、ここからスタートします。
シッタータは、天上界の神々に疑問を問うために出家。神々が住むとされる天界を訪ねる。天界でも戦いや気候変動で荒廃が進んでいることを知る。「兜率天」で、神を守る梵天、帝釈天と面会。だが、守護神たちとの会談を終えても、疑問は晴れず深まるばかり。シッタータは、軍を率いて神々と闘う鬼神・阿修羅王と出会い疑問をぶつける。
阿修羅王は、仏教では帝釈天ら神々にあらがう「悪鬼」とされています。
奈良の興福寺にある、3つの顔と6本の腕を持つ像は有名。穏やかなお顔が美しい。
もともとは正義をつかさどる神さま、だったんですね。
ところが帝釈天に嫁がせるはずだった娘を強奪されたことで怒り、戦いを始める。
この〝神格〟をベースに、光瀬さんは阿修羅王を物語の主役に。萩尾さんは女性らしいボディラインでキャラを設定。
メチャ美しくてカッコいい主役になっています。
★「神」に疑問を持つ「鬼神」と「聖人」
シッタータに戦いの理由を問われて、阿修羅王は兜率天に住むとされる弥勒に会わせます。
弥勒は56億7000万年後に地上にあらわれ、人々を救うとされる菩薩さま。こちらも京都の広隆寺の像が有名ですね。
シッタータがみた弥勒はつくりものだった。阿修羅王は、弥勒は兜率天に突然あらわれ「遠い未来に人類を救う」と宣言したと教える。
そして、自分が軍を起こす前から宇宙の荒廃が進んでいたと主張。
それなのに神々は荒廃を止めようとせず、人々を救ってくれない。
弥勒は、この宇宙の外からやってきた者。そんな得体の知れない者が、本当に人々を救ってくれるのか?
阿修羅王は、この疑問と荒廃が止まらない限り戦うのだとシッタータに答える。
この2人の出会いのシーンで、「神さまって、どこから来たの?」「何者なの?」と物語のテーマを再び強調。
「神は何をするつもりなの?」「信用していいの?」と、さらに疑問を投げかけているんです。
4.「神」は「正」なのか「邪」なのか?
ポセイドン、梵天、帝釈天、さらにはナザレのイエス(キリスト)。
ストーリーでは、これまで「神」や救世主とされてきた者たちの正体が明かされていきます。
彼らは「惑星開発委員会」が派遣していた地球の監視者たちだった。そして「開発委員会」の「計画」通りに、地球は荒廃していく。阿修羅王、シッタータ、オリオナエ(プラトン)たちは「何者」かの使命を受け、監視者たちを時空の果てまで追跡する。
自分たちが信仰していた「神」は、実は征服者。「鬼神」「悪鬼」とされたモノは、実は人間たち古代から守っていた守護神。
人々の中からも「神」に疑問を抱く「戦士」があらわれます。
荒廃していく地球をじっと見守るイエスら監視者たち。彼らは「神」に疑問を抱き反逆する人々を捕らえる役割も持っていた。「反逆者」たちを捕らえると「スイミンソウ」と呼ぶ施設に送り込み、疑似空間の社会で平穏に暮らす夢を見させて収容する。
「神」に疑問を持ち覚醒した阿修羅王たちも、監視者たちと死闘を展開。時空を超えて追跡していくんです。
「正」「邪」の神をめぐる設定は、今では多くの作品で採用されています。
昭和に発表された「百億の昼と千億の夜」はまさに、その先駆け的な作品です。
また「正」「邪」の神の正体や「古代の地球の支配者」といったコンセプト。
米国のホラー作家ラブクラフトのクトゥルー神話に通じるモノがあって、この観点から作品を楽しむことができるんです。
★戦士たちは永遠の戦いへ
監視者たちと激戦。多くの犠牲を出した末に最後に残った阿修羅王は、宇宙の絶対者・転輪王に遭遇します。
転輪王は古代インドの神さま。宇宙を統治するとされています。
転輪王は、阿修羅王たちに宇宙を守るという使命を与えたと告げる。長い時をかけた使命をまっとうさせるために阿修羅王らの体を改造した。「惑星開発委員会」と彼らを指揮する「シ」は別の宇宙からやってきた者。正体も分からないと告白。「シ」たちが実験のように生命を生み出し、絶滅させてきたことを明かす。
阿修羅王たち、そして我々が生きているこの宇宙を統べる転輪王。この絶対者でさえ正体が分からない「シ」という存在。
「シ」がやってきた「別の宇宙」とはどこにあるのか?「シ」とは何者なのか?なぜ生命を生み出し絶滅させたのか?
そして、結末はー。ここから先は、ぜひ作品をお読みください。
まとめ・バブル宇宙論の先駆け⁉
壮大なストーリーは宗教的、哲学的かつ科学的な結末で終わります。
転輪王は、宇宙の在り方を阿修羅王に説明しています。
この世の果て、宇宙の果てにはその先にも別の宇宙があって、果てがある。そして、その先にも…。
「シ」は別の宇宙からやってきた者。人類を導く「師」を連想させ、一方で「死」のイメージも匂わせます。「シ」は何者なんでしょう?
実に難解なストーリー。でも古代史、宗教、哲学、宇宙物理学、数学などの学説・理論が駆使されていて、読後感はスゴいモノがある。
「独特の世界観で、難解なストーリー設定のマンガはありますか?」
「難解なSFマンガを一度読んでみたいけど、オススメはありますか?」
そう訴える方にはストライクな作品です。
そしてエンディングで語られる「宇宙の果ての果て」「別の宇宙」というコンセプト。
「宇宙は泡から泡が生み出されるように、無限にあって発生し続ける」。
量子論から発展し現在の物理学で注目されている「バブル宇宙論」「多元宇宙論」が連想されます。
50年前以上に、このストーリーを創った光瀬さんの視点、イマジネーション力のすごさを感じますね。
「百億の昼と千億の夜」は、「神」の解釈論や科学的な見地からみても、まさに先駆け。
いま読んでも新しい、偉大な作品です。
「難解なSF作品が読みたい!」という方は、ページを開けば絶対に願いがかないますよ。
当ブログでは、ほかにもSFマンガについて紹介しています。よろしければ、ごらんください。
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