「ルーザーズ」ルパン三世、子連れ狼…青年漫画のヒット作の誕生秘話が詰まった傑作3つの読みどころ

2025年12月21日日曜日

マンガを楽しむ

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「アクション」の生みの親のトレードマークはハンチング帽

日本初の週刊青年漫画雑誌「漫画アクション」の創刊期が面白すぎる


日本の漫画雑誌の中で、オトナの漫画ファンから「バリバリに渋い作品が多い!」と高い評価がある「漫画アクション」。


青年向け漫画誌は数多くあるけれど、どちらかというと対象が「ちょっとオトナ向け」という感じ。


だから若者向けの漫画を卒業して、面白くてほろ苦いオトナのストーリーが読みたいというファンからは、


漫画アクションってどんなコンセプトで、どんな作品が載っているの?」なんて声が多いんです。さらに、


昔はアニメでも人気の『ルパン三世』が載ってたと聞くけどホントなの?


創刊当時からヒット作がたくさんあるらしいけど、どんな感じの作品だったの?


といった声もたくさんあるんです。


そんな方に読んでほしいのが、吉本浩二さんの「ルーザーズ〜日本初の週刊青年漫画誌の誕生〜」。


「漫画アクション」の創刊期を描いた作品です。


この雑誌が生まれるまでの人間ドラマが最高で、看板作品だった『ルパン三世』など大ヒット作の誕生秘話が分かる力作なんです。


この記事では「ルーザーズ」で描かれている、「漫画アクション」創刊期の人間ドラマや大ヒット作の誕生秘話など読みどころとして、


  1. 「漫画で文学を」のコンセプトで生まれた青年&オトナ向け雑誌
  2. ゴミ箱の同人誌から誕生したモンキー・パンチと「ルパン三世」
  3. 「子連れ狼」などの大ヒット作誕生の裏側での編集者たちの葛藤

上記の3つの読みどころを紹介&解説します。


この記事を読めば、「漫画アクション」がどんなコンセプトで誕生した雑誌なのか?


雑誌の創刊期にまつわ人間ドラマルパン三世」などの大ヒット作、その誕生秘話がよく分かります。


さらに「ルーザーズ」を手にして、ページを開いてみたくなりますよ。


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「漫画アクション」と「ルーザーズ」について



★日本初の週刊青年漫画誌


「漫画アクション」は出版社の「双葉社」が発行している漫画雑誌。


1967(昭和42)年に、日本初の週刊青年漫画誌として誕生しました。


創刊当時からのコンセプトは「青年に向けた漫画」。当時の貸本劇画を中心に創作の舞台にしていた漫画家を数多く起用。


劇画作品の傑作が多く、劇画ブームを巻き起こしました。主なヒット作は、


  • 「ルパン三世」(著者・モンキー・パンチさん)
  • 「子連れ狼」(原作・小池一夫さん、作画・小島剛夕さん)
  • 「柔侠伝」シリーズ(著者・バロン吉元さん)
  • 「じゃりん子チエ」(著者・はるき悦巳さん)
  • 「かりあげクン」(著者・植田まさしさん)
  • 「クレヨンしんちゃん」(著者・臼井儀人さん)

といったところ。ただ雑誌が売れる時期があれば低迷する時期もある。


そして低迷するたびにヒット作が誕生して部数が持ち直し、業界では「アクションには神風が吹く」とささやかれたそう。


ただ「クレヨンしんちゃん」以降はヒット作が出ず、2003年に一度休刊。2004年に月2回発行のスタイルで復刊


この世界の片隅に」(著者・こうの史代さん)などの話題作が生まれています。


★「漫画アクション」の創刊期を描く


そして、この記事で紹介する「ルーザーズ」の著者は吉本浩二さん。


昭和の中坊」や「ブラック・ジャック創作秘話」などの代表作が知られています。


そして「ルーザーズ」は、「漫画アクション」2017年14号から2019年11号まで連載。


コミックスは全3巻が発売されています。


ストーリーは「漫画アクション」の創刊期が舞台で、雑誌の誕生にたずさわった編集者や漫画家さんたちによる人間ドラマ


吉本さんが自ら、創刊当時に作品を執筆していた大先輩の漫画家さんや編集者の人たちを取材


綿密なインタビューと吉本さんの温かみのある作風がマッチして、メチャ面白くてエモいんです。


次項からは、この作品の3つの読みどころを1つずつ紹介&解説していきます。


1.「漫画で文学を」のコンセプトで生まれた青年&オトナ向け雑誌



★オトナになったら漫画は卒業


ストーリーの舞台は1960年代の東京。主人公は、清水文人(しみず・ぶんじん)さん。


実在の人で、「漫画アクション」の創刊者で初代編集長。後に双葉社の社長になった方。常に被っているハンチング帽がトレードマークです。


1965年。清水さんは漫画雑誌「漫画ストーリー」の編集長として多忙な日々を送っていました。


当時の双葉社に勤務する人たち、特に編集者は文学を愛する人が多かったそうです。


いずれは自分で小説を発表したい」もしくは「すごい作品を編集者として生み出したい」という思いが胸の中にあった。


清水編集長もロシア文学が好きな文学青年だったけど、そんな思いを胸に秘めて日々の仕事に汗を流していました。


そんな清水編集長が向かい合っていた1965年当時の漫画業界は、少年向け漫画のブレーク期でした。


少年漫画誌は「少年マガジン」「少年サンデー」「少年キング」の3誌のみだったけど、子どもたちに大人気。


「マガジン」では「ハリスの旋風」(ちばてつやさん)、「サンデー」は「オバケのQ太郎」(藤子不二雄さん)が大好評。


明るくて楽しいストーリー漫画が、子どもたちの心をとらえ始めていたんです。


一方で、青年向け漫画誌の方は社会風刺的な作品ばかり。軽いタッチの4コマモノが多かったり、社会&芸能の活字記事が主体。


ストーリー漫画は貸本漫画が主体だったけど、テレビが普及するにつれて人気がなくなり、衰退期にありました。


要するに、漫画は子どものモノでオトナには無縁オトナになったら漫画は卒業。そんな空気だったそうです。


★戦後ベビーブームの青年たち


オトナになったら漫画は卒業。そんな空気の中、当時の日本は戦後に誕生した子どもたちが成長


戦後ベビーブームで生まれた多くの青年たちが、社会に出始めていました。


青年たちは文学、音楽やファッション、スポーツやドライブを楽しみ、社会運動に参加。日本社会の主役になり始めていたんです。

清水は同僚たちと愚痴をこぼす居酒屋で、そんな青年たちと遭遇。

若者たちは音楽やファッション、映画の話題で盛り上がり、自分が愛している文学について激論をしている。

清水編集長は、酔った彼らが声高に話すことに耳を傾けていました

一方で双葉社は成果主義で採算が取れない雑誌は即廃刊。「漫画ストーリー」も他人事じゃありませんでした。

上層部からは「いつも変わり映えしない」「いずれ部数が落ち込むんじゃないのか」とささやかれている。

だから清水は「何か新しいことをしなくちゃ…」とモンモンとしていた。

そして清水編集長はひらめくんです。「青年=若者に向けた雑誌をつくろう」と。

「少年マガジン」「少年サンデー」は子ども向け。一方の「漫画ストーリー」は漫画を卒業したオトナ向け。


要するに、青年向けがぽっかりと抜けている状況にあった。


社会的にメジャー層になり始めていた青年たちが対象の漫画誌が不在だった。


そんな青年たちの心に刺さる漫画作品を模索し始めるんです。


★漫画で文学をやろう


青年向けの作品を模索する清水編集長が、突破口として見い出したのが、漫画家のモンキー・パンチさん。


モンキー・パンチさんといえば、「ルパン三世」。この作品に尽きちゃうほどの作家さん。


次項でくわしく紹介&解説しますが、とにかく絵柄がポップでカッコイイ。ストーリーもナンセンスで面白すぎる。


当時の漫画雑誌にはまったく載っていない、アバンギャルド(前衛的)で新しすぎる作風だったんです。


そんなモンキー・パンチさんの読み切りを数回にわたって「漫画ストーリー」に掲載。


社内では同僚たちから「カッコよくて新しい!」「文学的で漫画でも作家性が出ている」と賛辞が送られる。


若い読者たちからも「何これ⁉︎すげぇ〜!」「カッコイイ!」とファンレターが殺到したんです。


イケるかも」と手応えを感じた清水編集長は、アメコミ風のタッチが斬新なバロン吉元さん(後述)も発掘。


モンキー・パンチ&バロン吉元の2枚看板で、さらに若手の作家さんたちを集めます。


そして実験的に長編ストーリーのみを掲載した「漫画ストーリー」の増刊号をつくるんです。

当時流行っていた映画ジャンルの名で「行動」という意味がある「アクション」を増刊誌に命名。

1967年に発売された「増刊漫画ストーリー アクション特集号」は書店で売り切れが続出した。

増刊号で確信を得た清水編集長は社長に直談判。「コケたら責任をとって辞める」と口説いて新雑誌を立ち上げます。

それが日本初の週刊青年漫画誌「漫画アクション」というワケです。


清水編集長は新雑誌のためにスタッフを集めます。モンキー・パンチさんの作風に「新しい!」と感応した豊田浩明さん。


週刊大衆」の編集者で清水さんの〝子分〟的な石神信也さん。そして書籍編集者の堤仁さん。


堤さんは「漫画でも作家性が出せるんだ」と驚いた人ですが、根っからの文学青年だから清水さんのオファーに戸惑います。


でも清水編集長の「小説だけが文学じゃない。漫画で文学をやりたいんだ!」という熱すぎる言葉で口説かれるんですね。


清水編集長も根っからの文学青年。清水さんは堤にこう語りかけます。

人間の本質を表現するのが文学なら、漫画も文学になるだろ…

堤さんを納得させたこの口説き文句こそ、ワタシは「漫画アクション」の真のコンセプトだと思うんです。

2.ゴミ箱の同人誌から誕生したモンキー・パンチと「ルパン三世」



★ゴミ箱に捨てられた同人誌


モンキー・パンチさんの本名は、加藤一彦さん。子どもの頃から絵を描くのが好きで得意でした。


20歳の頃に故郷・北海道から上京して、会社勤めをしながら漫画を描いていました。


発表の舞台は当時あった貸本漫画。1冊を2泊3日で10円〜20円くらいで貸し出していました。


貸本漫画は劇画調の長編ストーリーが主流で、娯楽に飢えていた当時の人たちに愛されていました。


でもテレビが普及するにつれて、貸本漫画の役割が終了。作品の版元や貸本屋は潰れ、貸本作家たちは発表の場がなくなっていました。


そんな状況を打開するため、加藤さんは仲間たちとつくった同人誌を出版各社に送ったんですが、音沙汰なし…。


理由は、あまりにも作風がアバンギャルドすぎたから。


同人誌の表紙は加藤さんのモノだったそうですが、掲載された作品を含めて加藤さんの作風が、当時のの日本にはなかったから。


スタイリッシュで、カッコよくて、ポップ。ストーリーの世界観も日本じゃない感じ。


だから、同人誌のページを開いた編集者は「なんじゃこりゃ⁉︎」。


「漫画ストーリー」編集部にも送られてきたけど、読んだ編集者は「変わった絵だなあ」「漫画ストーリーじゃ無理か」とゴミ箱へポイ


でも、ひょんなことから同人誌を拾い上げた清水編集長が加藤さんの絵を見て、「何だこの絵…」と衝撃を受けるんです。


★米風刺雑誌に影響を受けて


加藤さんの作風は、アメリカの風刺雑誌MAD」に影響を受けたそうです。


「MAD」はポップな絵柄で文化・政治・芸能などを風刺的に表現。独特なタッチが若い漫画家やイラストレーターに影響を与えました。


加藤さんも古本屋で見つけてから大ハマり。「MAD」を参考にした作品を描き上げて出版社に送り続けたそうです。


清水編集長は加藤さんの作風に衝撃を受け、「雑誌に載せてみたい」と思ったワケです。でも、

加藤さんの作品を載せたら「漫画ストーリー」がぶっ壊れるんじゃないのか。

今までの読者が離れてしまうんじゃないのか?

約3カ月も悩み続けていたそうです。でも、文字通りアクションを起こさないと何も始まらない。

自分の直感を信じるんだ」と電話して、加藤さんと初対面。作品を拝見して、加藤さんが女性をうまく描けてないと指摘するんです。


漫画家は女性を美しく描けて一人前と教えられ、加藤さんは絵画教室に通います。


会社勤めをしつつ教室にも通い、作品を描き続ける。


次第に女性を含めた画力がアップ。清水さんに合格をもらった加藤さんは、「漫画ストーリー」で読み切り作品を掲載し商業誌デビューを果たします。


その後も読み切りを発表し続けて、快進撃が始まるんです。


加藤さんが描く女性は、とにかくキレイ。スタイリッシュでセクシーすぎる


その代表が「ルパン三世」のヒロイン、峰不二子です。


そして清水編集長が加藤さんの足りないものを指摘せず、絵画教室での修行がなかったら…。


昭和・平成・令和にいたるまで、男たちをトリコにした不二子ちゃんはいなかったかもしれませんね。

★モンキー・パンチの誕生


加藤さんは数々の読み切りや「アクション増刊号」へ寄稿し、清水編集長がつくる新雑誌の看板作家に起用されました。


ただ作品のペンネームは、同人誌時代の「マニア・ぐるうぷ」を使っていました。


清水編集長は、今までにない作品を生み出す作家には、新しい風を吹かすためのペンネームが必要だ。


そう考えて命名したのが「モンキー・パンチ」なんです。

加藤は「イヤですよ、そんな変な名前。ぼくは日本人だ」とイヤがるけど、清水のプッシュで泣く泣く〝改名〟。

でも読者からは「こんなカッコイイ作品を描くモンキー・パンチってどんな人?外国人なの?」と大反響だった。

「モンキー・パンチ」の命名の由来ですが、「モンキー」は加藤さんが中国の古典「西遊記」が好きで、主人公が妖猿「孫悟空」なことから。

パンチ」は明治時代に流行った欧米の風刺画「パンチ絵」からだそうです。


清水編集長は週刊漫画誌「漫画アクション」の創刊に向けて加速。メイン作家として加藤さんに表紙や作品を依頼します。

「モンキーが一番描きたいモノを描いてくれ」

清水編集長のオファーに、加藤さんは大好きだった、仏作家モーリス・ルブランの名作「怪盗ルパン」を思い出します。

ちょっと古いんじゃないか」という清水編集長に、映画「007」のジェームズ・ボンドのようなルパンを描きたいと思いを伝えます。


これが加藤さんの大傑作「ルパン三世」が誕生するきっかけなんです。


でも清水編集長は新雑誌創刊の忙しさで、加藤さんに構想を具体的に進めることを伝え忘れてしまいます。


他の作家さんたちの原稿が集まり、創刊が迫った段階になって、加藤さんに作品の具体化を伝え忘れていたのを思い出して…。


「ルパン三世」が掲載されるまでの、清水さんら編集者たちと加藤さんの奮闘劇は、この作品のハイライトの1つです。


めちゃハラハラするので、ぜひ作品でお読みください。


3.「子連れ狼」などの大ヒット作誕生の裏側での編集者たちの葛藤



★勝手に改名されたバロン吉元


1967年に創刊された「漫画アクション」は、爆発的に売れたそうです。


革新的な作風を持つモンキー・パンチ&バロン吉元の2枚看板と、貸本などで腕を磨いた新鋭作家たちの作品が大人気。


売り切れの書店が続出し、増版に次ぐ増版。いわゆる重版出来の状態だったそう。


2枚看板の1人、バロン吉元さんもモンキー・パンチさんと同様に清水編集長が〝ひと味〟加えて誕生した作家さんなんです。


バロン吉元さんの本名は、吉元正。武蔵野美大西洋画科や漫画家のアシスタントで培った技術で描く作品は、アメコミタッチ


当時の少年漫画誌や青年漫画誌には合わない作風のため、苦戦が続いたそうです。


そんな中、清水編集長に「ああ、これだ!」と、どこにも載っていない漫画として見いだされたんです。


ただアメコミ風でオシャレな作風の一方で、原稿に記されたペンネームは本名のまま。


地味で作風に合わないな」と清水編集長が考えたのが、「バロン吉元」でした。


吉元さんは発売された雑誌に掲載された自分の作品の表紙を見てビックリ勝手にペンネームが変えられていたからです。


本人の了承もなく〝改名〟されただけに、吉元さんは激怒。「ふざけんな」「ぶっ飛ばすぞ!」と編集部に怒鳴り込んだんです。


清水さんら編集部員は「バロン」が「男爵」の意味でカッコいいこと。


1937(昭和12)年のロス五輪の馬術競技で金メダルを獲得した陸軍軍人・西竹一さんが「バロン西」の愛称で人気だったことを説明。


要するに「バロンはイカしてる!」と弁明されて、吉元さんも「ま、いいか」と納得したそうです。


また清水編集長は吉元さんのアメコミ風のタッチをほめつつ、吉元さんだけしか描けない作品があるはずだと助言。


熟考の末、吉元さんはストーリーを社会的な内容にして、アメコミタッチを劇画タッチにマイナーチェンジ。


そんな過程で生み出され、柔道家の壮絶な生きざまを描いた「柔侠伝」は、バロン吉元作品を代表する人気シリーズになったんです。


★負け犬たちの心意気


創刊から破竹の勢いに乗った「漫画アクション」ですが、漫画業界のライバルたちが指を加えてみているワケはありません。


大手出版社が青年漫画誌に参入する」というウワサが流れ、清水編集長ら編集部員たちは戦々恐々とするんです。


そして1968年、小学館が「ビッグコミック」を創刊。大手による初の青年漫画誌でした。


清水編集長が衝撃を受けたのは、執筆陣の豪華すぎる顔ぶれ


忍者漫画「サスケ」などが代表作の白土三平。漫画の神様・手塚治虫。SFモノの神童・石森章太郎 etc。


当時の「漫画アクション」ではオファーすることさえ難しい人気作家がズラリと並んでいたんです。


当時の双葉社員の方たちは大手出版社に劣等感を抱き、葛藤があったそうです。


「アクション」の編集部員たちも、入社試験を受けた大手の全てに落ちて双葉社に来た人ばかり。


自虐的に自分たちを「負け犬」と呼んでいました。この作品のタイトル「ルーザーズ」は、これにちなんで命名されたそうです。


自分を落とした大手が、自分には手が届かない作家たちと豪華すぎる雑誌をつくっている。あまりにも残酷な現実。


コミックス第3巻18話「もえたぎる苦しさ」では清水編集長が1人、酒場で涙を浮かべて酒を飲むシーンが描かれています。


その背景には、店のラジオで流れるフォーククルセイダーズの名曲「悲しくてやりきない」の歌詞が記されています。

♩悲しくて悲しくて とてもやりきれない この限りないむなしさの救いはないだろうか

このサビが清水編集長の心境を表していて、めっちゃ心に刺さるんです。

失意の編集長を救ったのは、「アクション」で誕生した漫画でした。

清水は、ちょうど上がってきたモンキー・パンチの原稿に目を通す。

原稿には石川五右衛門が斬鉄剣で分銅を粉微塵に切るシーンが描かれている。

「これだよな。金もない、人脈もない、力もない俺たちみたいな小さい会社は…自分の直感を信じるしかないんだよ」

自分たちの直感から誕生した作品で勝負するしかない。そんな「負け犬」たちの意地と心意気が、めちゃカッコいいんです。


★直感を信じて生み出したヒット作


他誌との激しい競争の中で生き残るために、清水編集長はずっと悩み続けていました。


今はモンキー・パンチが売れて絶好調だが…、続く柱を見つけておかないと…。


人気が上がるのが早い漫画業界ですが、人気が落ちるのも早いモノ。だからモンキー・パンチ&バロン吉元に次ぐ看板が必要だったワケです。


だから編集部員たちは「ああ、これだ!」という自分たちの直感を信じて、いろんな作家たちに声をかけ、数々の新作品を立ち上げたんです。


小池一夫さんと小島夕剛さんの「子連れ狼」は、剣客・拝一刀と息子・大五郎の親子が追手との死闘に生きる劇画時代劇として大ヒット。


映画化・テレビドラマ化もされて、国民的な人気作品になりました。


他誌で苦戦していた矢口高雄さんは「釣りバカたち」を執筆。釣りジャンルを確立して、代表作「釣りキチ三平」につなげました。


そして強くて健気なナニワの女の子・チエが活躍する、はるき悦巳さんの「じゃりン子チエ」。


さらに「嗚呼!花の応援団」(どおくまんさん)や「がんばれ ‼︎ タブチくん ‼︎」(いしいひさいちさん)。


かりあげクン」(植田まさしさん)や「クレヨンしんちゃん」(臼井儀人さん)。


いずれもクセがあって強烈で、面白すぎる人間ドラマが描かれている作品ばかりです。


最近の大ヒット作「この世界の片隅に」は、第2次世界大戦下の広島で懸命に生き抜くヒロインの姿が心に刺さりまくる名作です。


ただ戦争や原爆による被害などストーリーには重いモノがある。今の少年誌はもちろん、青年誌でも敬遠しがちなテーマです。


でも「アクション」は「人間の本質を描く文学を漫画でやる」がコンセプト。「アクション」だからこそ掲載することができた。


「ルーザーズ」の作者である吉本さんは、そう説明しています。


これにはワタシも強く同意します。そして「アクション」にはこれからも「人間ドラマ」をたくさん生み出してほしいと思っています。


まとめ・吉本さんのストーリー構成と画力が素晴らしすぎる


1960年代の高度成長期は漫画の成長期でもありました

ここまで「漫画アクション」創刊期を描いた作品、「ルーザーズ〜日本初の週刊青年漫画誌の誕生〜」について紹介&解説してきました。


そして「ルーザーズ」で描かれている、「漫画アクション」の創刊期と人間ドラマや「ルパン三世」などの大ヒット作の誕生秘話など読みどころとして、


  1. 「漫画で文学を」のコンセプトで生まれた青年&オトナ向け雑誌
  2. ゴミ箱の同人誌から誕生したモンキー・パンチと「ルパン三世」
  3. 「子連れ狼」などの大ヒット作誕生の裏側での編集者たちの葛藤

上記の3つの読みどころを紹介&解説してきました。


「漫画アクション」は数多い漫画雑誌の中で、オトナの漫画ファンから「バリバリに渋い作品が多い!」と高い評価があります。


そのため若者向けの作品を卒業して、面白くてほろ苦いオトナのストーリーが読みたいというファンで、


漫画アクションってどんなコンセプトで、どんな作品が載っているの?


昔はアニメでも人気の『ルパン三世』が載ってたと聞くけどホントなの?


創刊当時からヒット作がたくさんあるらしいけど、どんな感じの作品だったの?


なんて疑問がある方は、この記事を読んで「漫画アクション」がどんなコンセプトで誕生した雑誌なのか分かったと思います。


そして雑誌の創刊期の人間ドラマや「ルパン三世」などの大ヒット作、その誕生秘話もよく分かったと思います。


そして最後に。「ルーザーズ」は「アクション」誌が生まれるまでの人間ドラマがめちゃ心に刺さる作品です。


さらには「ルパン三世」などの大ヒット作の誕生秘話も分かる力作です。


この記事では3つの読みどころを紹介しましたが、それはホンのさわりだけ。


ストーリーには思わず目がウルッとしちゃうエピソードや、「これもアクションに載ってたの⁉︎」と驚く作品がたくさん登場


著者の吉本さんのストーリー構成と画力の素晴らしさにうなってしまうほどです。


この記事を読んで興味を持ったら、ぜひ作品のページを開いてみてください。


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