「陰陽師」「神々の山嶺」ヒット作のほかにも面白い作品がよく分かる
さまざまなジャンルで傑作小説を発表している作家、夢枕獏(ゆめまくら・ばく)さん。
エッセイストや写真家としても精力的に活躍している鬼才の人です。
代表的なヒット作は何といっても「陰陽師」。平安時代に実在した陰陽師・安倍晴明の活躍を描き、実写映画化もされ大人気に。
最近では山岳小説「神々の山嶺」。エベレストに挑む日本人登山家たちの苦闘が描かれ、やはり実写映画もヒットしました。
さらに伝奇バイオレンス「キマイラ・吼」&「闇狩り師」シリーズ。SFモノ「サイコダイバー」シリーズ etc 。
「陰陽師や神々の山嶺など代表作を読んで夢枕さんの作品にハマりました。まだ読んでいない中で面白い作品を教えて!」
「ヒットしたシリーズはすごく長いので(笑)ほどよい長さの面白い作品を教えて」
そんな声がたくさん上がっているんです。
この記事では、数多い夢枕作品の中でオススメや、ヒット作を読んで夢枕作品にハマり「まだ読んでいない」傑作を読みたい人に向けて、
- 「荒野に獣 慟哭す」
- 「沙門空海唐の国にて鬼と宴す」
- 「餓狼伝」
- 「仰天 平成元年の空手チョップ」
夢枕獏さんについて
1.「荒野に獣 慟哭す」
ニューギニアの奥地には、ジャングルの中で暮らし食人習慣がある少数民族が存在した。彼らの脳からは宿主の能力を飛躍的に向上させるウイルス「独覚菌」が発見された。大脳病理学研究所では発見したウイルスを抽出し、被験者の脳に植え付ける実験を行う。被験者は自衛隊の特殊部隊員が選ばれた。彼らは特殊任務を行うため戸籍上は死亡者扱い。そのため「ゾンビスト」と呼ばれる。
竹島は研究機関の一室で御門として目覚めるが、過去の自分の記憶がない。御門は記憶が戻らないことに苦悶。そんな中、獣のような姿をした異形のモノたちが研究所を襲撃。研究員たちを手にかける。
人間の内面には獣性が潜んでいるのか⁉︎ |
2.「沙門空海唐の国にて鬼と宴す」
延暦23(西暦803)年、空海は私費の留学僧として遣唐使船に乗り込み、唐に渡る。船内では儒学生で後の大政治家・橘逸勢(たちばなのはやなり)と意気投合。唐土でともに行動する親友になる。唐土では密教修行の一方で、さまざまな怪異に遭遇する。逸勢や唐の詩人・白楽天(白居易)らと怪異を解決していく。
長安に住む金吾衛(警察官)の家に住みついた、人語を話し怪異を起こしたり権力者の死を予言する猫と空海らが遭遇する。
長安(西安)は世界有数の国際都市だった |
空海は仏教・学問(書)や海外の文化・社会知識、中国語の下地がある状態で留学僧として渡海。空海が乗った船は漂流して唐土に到着。現地の役人に保護を求めたが、交渉役の語学力と説明文書が拙くて相手にされない。現地人と中国語で会話できた空海は、一行のトップに頼まれ保護を求める文書を作成し提出。役人の保護を得ることに成功。
3.「餓狼伝」
1985年に双葉社から書き下ろしの新書が発売され、以降も単行本が13巻まで刊行。
2006年以降は「小説推理」でタイトルを「新・餓狼伝」と変えて連載。単行本も計5巻が発売中。
ワタシが第1巻を試し読みしてハマった長編作品です。
漫画版も小説誌「獅子王」で1989年2月号から1990年4月号まで、谷口ジローさんの作画で連載。
さらに板垣恵介さんの作画により「コミックバーズ」で1996年からスタート。
「ヤングマガジンアッパーズ」「イブニング」「週刊少年チャンピオン」と移籍し、高評価を獲得しています。
また実写映画版も1995年に公開。極真空手の八巻健志さん、プロレスラーの石川雄規さんらが出演。人気となりました。
★登場人物とあらすじ
奈良の街に丹波が現れる。古武術・武宮流の泉宗一郎に挑戦するためだった。雑木林の中での真剣勝負。禁じ手がなく死闘となったが丹波は泉を打ち倒す。丹波は体と技を鍛え上げ実戦を積んでいた。6年前の敗北がきっかけだった。東洋プロレスに道場破りで乗り込み、前座レスラー梶原年雄と対戦。丹波は打撃をたたき込むが、梶原の関節技に屈する。敗北後、丹波は格闘家としてさらに強くなるため関節技の習得に汗を流す。6年後、梶原が海外遠征から帰国したニュースを知り、いてもたってもいられず東京へ…。
ストーリーには空手、柔道、古武術、ブラジリアン柔術、プロレスの使い手たちが登場。
強さを求めて体と技を鍛え上げ、自分が最強であることを証明するために激突する。
打撃と関節技、スープレックスの達人たちがセメント(真剣勝負)で対決したらどうなるのか? どちらが勝つのか?
作品は格闘技ファンが常に考えている疑問に答えてくれます。
丹波はキレ、スピードがバツグンのキックを繰り出し、梶原の体に重いダメージを与えていく。梶原は多くの技を受けて魅せるプロレスラー。空手の有段者でもある。打撃をいなし打たれ強さも発揮して丹波を捕まえにいく。レスラーに捕まったら終わり。丹波は承知しながら追い詰められ、関節技を極められ敗れる。
うなりを上げる打撃。2人の苦しそうな息づかい。関節がきしむ音。激痛。
ファイトシーンの描写は細かくて分かりやすい。脳内でイメージさせる筆力がバツグンで〝リアル〟に伝わってきます。
戦国時代から続く古武術の技の描写も頭の中に浮かび上がるほどうまくて、迫力十分です。
★憧れのファイターがモデルで感情移入できる
登場するファイターには、モデルがいるそうです。
前座からメーンイベンターになった梶原。フルコンタクト(直接打撃)空手・北辰会館の黒帯で蹴り技もスゴイ。まさに格闘王・前田日明さん。
東洋プロレス社長のグレート巽はメインイベンター。ブラジル出身でバーリトゥードにも出場。アントニオ猪木さんです。
北辰会館の館長・松尾象山はケンカ屋で空手最強の証明を目指す。巽ともつながりがある。まさに大山倍達さん。
格闘技ファンが好きな、憧れのファイターの姿が登場キャラに投影されている。だから感情移入ができてコーフンする。
夢枕さんは格闘技、プロレスへの造詣が深く、大好きな人。日本のフクザツな格闘技史も作品の背景になっています。
空手界とプロレス界のバチバチだった関係も反映されているので「そうそう、そういう構図なんだよね」とうなずいちゃう。
総合格闘技ファンの方はぜひ「餓狼伝」シリーズをお読みください。オナカいっぱい満喫できますよ。
4.「仰天 平成元年の空手チョップ」
集英社のPR誌「青春と読書」で1989年から1993年まで連載。
1993年に単行本、1996年に文庫本が発売されています。
前項で紹介した「餓狼伝」など格闘技がテーマになる小説を発表している夢枕さんは、前述したように大のプロレスファン。
「餓狼伝」でも、昭和・平成のリングで活躍したスター選手がモデルになっているプロレスラーが登場しました。
一方の「仰天 平成元年の空手チョップ」のリングには、実在(した)のレスラーたちが実名で参戦。
そしてストーリーの主人公はタイトル中の「空手チョップ」から連想できちゃう。そう、日本のプロレスの父・力道山なんです。
★登場人物とあらすじ
力道山は大相撲時代には関脇を務めた実力派力士。プロレスに転向してからは米のマット界で武者修行。
帰国後に「日本プロレス」を創立。1954年の旗揚げ興行では全国で14連戦を敢行。シャープ兄弟と死闘を演じてプロレス人気が爆発。
1954年の「巌流島決戦」では昭和の柔道王・木村政彦さんを下し、日本のリングに君臨しました。
絶頂の中、1963年にケンカで負ったケガが悪化し死去…。でも、もし力道山が生きていて現在のリングに復活したら…。
そんなプロレスファンの夢を、夢枕さんがストーリー上で〝実現〟してくれたんです。
時は平成元年(1989年)。東京ドームではUWFの大会が開催。「格闘王」前田日明の異種格闘技戦が行われていた。
東京ドームの観客席では、ハンチング帽の男がリングを見つめている。
男は「あの小僧(前田)とセメントで闘いてえ。前座はおめえたちだ」。
そう命じたのは、プロレスの父・力道山。命じられたのは、かつて弟子だったジャイアント馬場とアントニオ猪木だった。
力道山は昭和の昔に亡くなったはず。だが医療技術が発達している未来で治療を受けるため、冷凍睡眠が施されていた。
力道山は平成元年、27年間の長い眠りから目覚め再びリングに上がると宣言。そしてメインイベントの相手に前田さんを指名。
さらに前座として、弟子だった馬場さんと猪木さんにシングル対決を厳命。プロレスファンから見れば、ダブルメインイベント級の試合です!
しかし、長い眠りから覚めた力道山がいきなりリングに上がる。しかも相手は平成の格闘界をリードしたUWFの前田さん。
プロレスの父といえど、無茶がすぎます。
冷凍睡眠から覚醒後、治療を受けて回復したとはいえリハビリは必要。闘うための体を作り直さないといけない。
しかも「格闘王」前田さんとセメント(真剣勝負)。悲惨な結末にもなりかねない。でも力道山は「夢」を強調します。
「力道山は長生きするために生きてるんじゃない。夢のために生きている」
「みんなの夢ですよ。全ての人間の夢のために、この力道山は生きているんですぜ」
日本のプロレスの父で当時は最強を誇った力道山。そして平成のリングを一世風靡した格闘王・前田さん。
もし両者が闘えば、どちらが勝つのか⁉︎ 最強はどっちなのか⁉︎
プロレスファンの間では「これまでの強豪レスラーが全盛時代に闘ったら、だれが最強なのか⁉︎」。
そんな話題が常に上がっています。この答えを知ることもプロレスファンの夢。
夢枕さんは、そんな答えの1つである「プロレスの父VS格闘王」をストーリーで〝実現〟してくれたわけです。
そして、もう1つの夢が「和解」。ストーリーには力道山のライバルだった木村政彦さんも登場します。
力道山と木村さんには「巌流島」の因縁があり、最後まで2人が和解することはありませんでした。
両雄をリスペクトする夢枕さんは、ストーリー上で「和解」を実現。その描写もちょっと粋でスカッとする。
ぜひ作品で読んでいただきたい名シーンの1つです。
当ブログでは力道山と木村さんの巌流島決戦についても紹介しています。ぜひご覧ください。
「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」昭和の柔道王の物語でわかる「日本格闘技黎明史」4つの真実
★平成のプロレス界が分かる
力道山とセメントで闘う前田さん。当時は多彩なスープレックスと破壊力バツグンのキックで「格闘王」の称号を誇るレスラー。
現在の総合格闘技ブームの源流となった団体「UWF」を設立した人物です。
東京ドームで力道山が観戦したのは、平成元年に開催された「UーCOSMOS」。6万人を動員した第2次UWF全盛期の大会でした。
これまでのプロレス興行とは一線を画した演出がバリバリ。試合前の選手入場式、まばゆいレーザー光線、気分が上がる音楽。
しかもファイトスタイルはスープレックス・打撃・サブミッション(関節技)。夢枕さんも当時の大会を観戦して絶賛していました。
そんな平成の熱狂を夢枕さんがストーリーに反映。観客席でリングを見つめる力道山の血が騒ぐ。うまい設定です。
登場人物も馬場&猪木の「BI砲」をはじめ、藤波辰爾さん、ジャンボ鶴田さん、長州力さん、天龍源一郎さん、初代タイガーマスク etc。
昭和〜平成の名レスラーたちが実名で登場。平成のプロレス界の熱量があふれ、プロレスファンの夢もかなえている。
夢枕さんのペンネームにふさわしい、夢にあふれた作品です。
まとめ・大長編シリーズにも挑戦したくなる
夢枕ワールドにハマると大長編に挑戦したくなる |
- 「荒野に獣 慟哭す」
- 「沙門空海唐の国にて鬼と宴す」
- 「餓狼伝」
- 「仰天 平成元年の空手チョップ」
「陰陽師や神々の山嶺など代表作を読んで夢枕さんの作品にハマりました。まだ読んでいない中で面白い作品を教えて!」
「ヒットしたシリーズはすごく長いので(笑)ほどよい長さの面白い作品を教えて」
この記事では、夢枕さんの代表作「陰陽師」や「神々の山嶺」についても紹介しています。ぜひ、ご覧ください。
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