夢枕獏・考察「作品がたくさんあって迷う」人や「代表作以外の面白い作品」を読みたい人へお勧め4選

2023年6月17日土曜日

小説を楽しむ

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夢枕さんが描く格闘シーンは迫力に満ちている

「陰陽師」「神々の山嶺」ヒット作のほかにも面白い作品がよく分かる


伝奇、SF、歴史、宗教、格闘技、さらにはアウトドア etc。

さまざまなジャンルで傑作小説を発表している作家、夢枕獏(ゆめまくら・ばく)さん。

エッセイスト写真家としても精力的に活躍している鬼才の人です。

代表的なヒット作は何といっても「陰陽師」。平安時代に実在した陰陽師・安倍晴明の活躍を描き、実写映画化もされ大人気に。

最近では山岳小説「神々の山嶺」。エベレストに挑む日本人登山家たちの苦闘が描かれ、やはり実写映画もヒットしました。

さらに伝奇バイオレンス「キマイラ・吼」&「闇狩り師」シリーズ。SFモノ「サイコダイバー」シリーズ etc 。

壮大な長編作品がたくさん発表されています。それだけに、

夢枕獏さんの小説を読んでみたいけど、たくさんあって選ぶのに迷っちゃう」なんて声が多い。さらに、

陰陽師や神々の山嶺など代表作を読んで夢枕さんの作品にハマりました。まだ読んでいない中で面白い作品を教えて!

ヒットしたシリーズはすごく長いので(笑)ほどよい長さの面白い作品を教えて

そんな声がたくさん上がっているんです。

この記事では、数多い夢枕作品の中でオススメや、ヒット作を読んで夢枕作品にハマり「まだ読んでいない傑作を読みたい人に向けて、

  1. 「荒野に獣 慟哭す」
  2. 「沙門空海唐の国にて鬼と宴す」
  3. 「餓狼伝」
  4. 「仰天 平成元年の空手チョップ」

上記の4作品をチョイス。その内容魅力を紹介&解説します。

この記事を読めば夢枕作品のオススメが分かり、「まだ読んでいない面白い作品を選ぶ参考になります

そして実際に作品を手に取ってページを開きたくなりますよ。

夢枕獏さんについて

夢枕作品の伝奇モノも怖くて面白い!

★幅広いジャンルで作品を展開する鬼才

夢枕獏さんは1951年1月生まれ、神奈川県出身。本名は米山峰夫さん。

ペンネームの「夢枕獏」は、夢を食べるとされる伝説の妖獣「」と夢のような話を書きたいーという意味があるそうです。

これまで発表された作品は、ペンネームのごとく夢のような面白い話がたくさんあります。

「陰陽師」など前述した代表作をはじめ、SF伝奇モノ「大帝の剣」シリーズ。

夢枕さんが好きなアウトドア系なら、江戸・元禄時代に実在し日本最古の釣り指南書を残した津軽采女を主人公にした「大江戸釣客伝」。

ホント、幅広いジャンルで傑作を発表している鬼才。受賞経歴もスゴくて、日本SF大賞星雲賞日本冒険小説協会大賞泉鏡花賞 etc。

各ジャンルで受賞するなど、各作品の充実度や面白さが際立っています。

★「オススメ作品」で順位が低い傑作

夢枕さんの数多い作品の中から、この記事で4作品をチョイスした理由はチマタの「オススメ作品」で順位が低いから。

Googleやヤフー知恵袋などで「夢枕獏 オススメ作品」を検索すると、その結果はほとんどが「陰陽師」や「キマイラ・吼」など。

大長編シリーズが多かったりするんです。

夢枕さんの大長編モノは巻数がたくさんあったり、未完の作品があったり。最後まで読むのが大変だったりします。

ワタシは長編すぎると飽きるクチ。ほどよい長編1巻完結の作品を読んでいました。一方で試しに大長編モノの第1作を読んだらハマって。

そんな風に読んで「面白かった!」と思った作品が、「オススメ」に出てくる順位が「低いなあ…」と感じたり。

この記事で紹介する4作品は、オススメ作品の中で「順位は低いけど面白いよ」という傑作ばかり。

長編もあるけど、ほどよい巻数で収まっていて集中して読みやすいんです。

次項からは作品を1つずつ紹介&解説していきます。

1.「荒野に獣 慟哭す」

 

 ★格闘要素が楽しめる伝奇バイオレンス作品

週刊小説」で1989年から2000年まで連載。単行本は全5巻が発売中です。

コミカライズもされて、伊藤勢さんが作画を担当。「徳間文庫コミック版」から全5巻(電子書籍版は分冊版が全15巻)が発売されています。

テーマは、研究機関が極秘に作り出した軍用の生体兵器「獣化兵」(漫画版は「独覚兵」)と生体兵器をめぐる軍産企業や各勢力の暗闘。

「獣化兵」に改造された兵士は優秀な元自衛官と設定。だから戦闘シーンは射撃&狙撃術、格闘術などがリアルで迫力十分に描かれています。

さらに仏教(密教)や海外の宗教・文化・歴史的な要素も盛り込まれている、伝奇バイオレンス作品です。

★登場人物とあらすじ

主人公は御門周平(みかど・しゅうへい)。本名は竹島丈二(たけしま・じょうじ)。

ある研究機関の研究員でしたが、ニュータイプの「獣化兵」を作る研究で自ら被験体として志願。

実験後は新しい獣化兵「御門周平」として目覚めます。

ニューギニアの奥地には、ジャングルの中で暮らし食人習慣がある少数民族が存在した。

彼らの脳からは宿主の能力を飛躍的に向上させるウイルス「独覚菌」が発見された。

大脳病理学研究所では発見したウイルスを抽出し、被験者の脳に植え付ける実験を行う。

被験者は自衛隊の特殊部隊員が選ばれた。彼らは特殊任務を行うため戸籍上は死亡者扱い。そのため「ゾンビスト」と呼ばれる。

ゾンビストは超人的な身体&戦闘能力を発揮します。でも全身が獣化。性格も残虐になり食人を好む傾向になる副作用があったんです。

この副作用を解決するためウイルスを改良、ニュータイプの獣化兵を生み出すために自ら被験者になったのが竹島でした。

竹島は研究機関の一室で御門として目覚めるが、過去の自分の記憶がない。

御門は記憶が戻らないことに苦悶。そんな中、獣のような姿をした異形のモノたちが研究所を襲撃。研究員たちを手にかける。

研究所を襲った異形のモノは巨大な犬のような姿。「招杜羅(しょうとら)」と名乗り、御門を「宮毘羅(くびら)」と呼び襲いかかります。

御門は姿こそ変わらなかったけど超人的な身体能力で招杜羅に応戦。撃退します。

御門が襲われるのは「新型」のため。超人化する一方で獣化の副作用がない「新型」は、各勢力が絶対に手に入れたい戦力だからです。

以後も肉食恐竜のような姿のゾンビストに襲われ、利権をめぐる軍産企業や各勢力の暗闘に巻き込まれていくんです。

人間の内面には獣性が潜んでいるのか⁉︎

★宗教・文化・歴史的要素もあふれる伝奇

この作品はバイオレンス&格闘要素が多く、戦闘シーンの描写もリアルで迫力満点です。

さらに、ストーリー設定に宗教・文化・歴史的な要素が加えられていて読み応えがメチャあります。

まずはゾンビスト。被験者となった自衛官11人と御門には「招杜羅」や「宮毘羅」などの仏教的な名前が付けられています。

これは薬師如来を守る12神将の名前。薬師如来はこの世に生きるすべて「衆生(しゅじょう)」を救う仏。密教では重要な仏とされます。

ゾンビストを率いるのは、薬師丸法山(やくしまる・ほうざん)。古武術&格闘術の達人で超優秀な指揮官。獣化兵と変わらない戦闘能力の持ち主。

薬師丸はゾンビストたちと軍産企業「土方重工業グループ」に身を投じます。獣のような姿になった部下たちが生きていくための選択でした。

★森の精霊のタブーを破ったモノたち

ニューギニアでは精霊祖先霊の信仰が根強く、超自然的な力を借りて敵を倒す呪術もあるそうです。

作品ではこの精霊&祖先霊信仰をストーリーの要素として描かれています。

獣化兵はニューギニアの少数民族の「獣化」の秘密を盗んで作り上げたモノ。これはジャングルの森に住む精霊たちのタブーを破る行為でした。

だからウイルスを盗んだ人間や獣化した兵士を罰するニューギニアの呪術師も登場し、獣化兵らと戦うんです。

さらに「土方グループ」。この軍産企業の狙いはメキシコユカタン半島、かつて存在したマヤ文明の地に眠る資源。

莫大な利権を手にしたい各国による水面下での争奪戦が展開されている設定です。

表立って参戦できない日本政府の意を受けたのが「土方グループ」。さまざまな工作を展開します。

一方でマヤ文明の遺産を守ろうとマヤの子孫たちが対抗。マヤ神話に登場するククルカンなどの神々から与えられた特殊能力で戦うんです。

「荒野で獣 慟哭す」はニューギニアの精霊・祖霊やマヤ神話の神々が絡み合い、宗教・文化・歴史的な伝奇要素がタップリ。

激しい戦闘シーンが展開し裏切りやどんでん返しも飛び出す。読み応えはバツグンですよ。

2.「沙門空海唐の国にて鬼と宴す」

 

 ★平安初期のスーパースターを描く

月刊SFアドベンチャー」で1988年に第1話を発表以来、17年間をかけて完成させた壮大な作品。

2004年に単行本、2010年に文庫版が徳間書店から発売。2011年には角川文庫版も刊行。全4巻が発売されています。

コミカライズもされ、夢枕さんの原作を大西実生子さんが作画。コミックスは全1巻が刊行されました。

2017年には「空海ーKUーKAIー美しき王妃の謎」のタイトルで、日中合作で映画化。若手の実力派俳優・染谷将太さんの主演で大好評となりました。

主人公は平安時代初期に実在し、当時の日本仏教界で活躍した弘法大師・空海(くうかい)。

日本に本格的な密教をもたらした真言宗の開祖。伝教大師・最澄と並ぶ平安仏教の巨頭。

筆の達人で「三筆」の1人。今も書人からの尊敬を集めています。

何よりも有名なのは「法力」。仏法を原動力とした不思議な力で奇跡を起こし、民衆を救った伝説の持ち主です(後述)。

夢枕さんは、そんな平安初期のスーパースターが中国の大帝国・唐に渡ったころの若き姿を描いています。

★登場人物とあらすじ

ストーリーの舞台は平安初期。空海が密教の本格修行のため、中国に渡るところから物語はスタートします。

延暦23(西暦803)年、空海は私費の留学僧として遣唐使船に乗り込み、唐に渡る。

船内では儒学生で後の大政治家・橘逸勢(たちばなのはやなり)と意気投合。唐土でともに行動する親友になる。

唐土では密教修行の一方で、さまざまな怪異に遭遇する。逸勢や唐の詩人・白楽天(白居易)らと怪異を解決していく。

空海は唐土で白楽天など当時の知識人と知り合い、遭遇する怪異を解決していきます。

その手始めが第1巻の「序の巻 妖物祭」から始まる化け猫の話。

長安に住む金吾衛(警察官)の家に住みついた、人語を話し怪異を起こしたり権力者の死を予言する猫と空海らが遭遇する。

世界三大美女の1人、楊貴妃の秘密なども描かれ、映画版の主要エピソードになっています。

★世界の先進都市・長安

空海が渡った唐の首都・長安(現在の西安)は、当時では世界有数の国際都市でした。

政治・文化・科学・学問・宗教などでも世界の最先端を走っていたんです。

西方からは欧州のローマ圏の文化・宗教(キリスト教)、イスラムペルシャの文化や宗教が到来。東からもアジアの来訪者たちが集結。

日本から遣唐使や留学生が訪れたように、世界中から人々や物資、文化が集まっていました。

ストーリーでも、空海が歩く長安の街はまさに国際都市として描写。さまざまな文化や風俗も描かれていて想像をかき立てるんです。

仏教徒としての空海は、中国の道士道教のマスター)をはじめ、ペルシャなどで隆盛だったゾロアスター教の呪術師などに遭遇。

関わりになった怪異や事件をめぐって、世界レベルの〝呪術廻戦〟が展開されるんです。

読んでいて面白い上に、世界の宗教史&文化史も楽しむことができるんですよ。

長安(西安)は世界有数の国際都市だった

★「空海伝説」でもっと作品を楽しめる

ストーリーのベースなっているのは、空海が秘める天才的な学識・知識と法力の伝説・伝承です。

中国でもその力を発揮して活躍した姿が公式文書に記録されています。

さらには日本の各地にたくさん残っている弘法大師の伝説。これらの伝承や伝説を知っていれば、さらにストーリーを楽しむことが可能。

この項の締めくくりとして、いくつか空海の伝承や伝説を紹介します。

中国語が堪能な書人

空海は若いころ、国内各地にいる帰化人を訪問。当時の中国で隆盛だった密教などを習得。その際に中国語も学んだとされます。

空海は仏教・学問(書)や海外の文化・社会知識、中国語の下地がある状態で留学僧として渡海。

空海が乗った船は漂流して唐土に到着。現地の役人に保護を求めたが、交渉役の語学力と説明文書が拙くて相手にされない。

現地人と中国語で会話できた空海は、一行のトップに頼まれ保護を求める文書を作成し提出。役人の保護を得ることに成功。

文書は明晰で格調が高く、筆跡には気品がある。中国人でも簡単に書けない文書に感心した現地役人は保護を快諾したんです。

空海は唐で本格的に書を学びましたが、母国での修行で基礎をマスターしていたようです。

このエピソードは第1巻の第1話「空海怪力乱神を語る」でも披露されています。

空海は唐でも名書家として評判となり、帰国後は「三筆」(嵯峨天皇橘逸勢)の1人として尊敬を集めています。

温泉・弘法水・名物

当時の中国は文化科学の面でも最先端を誇っていました。空海が渡海前に訪ねた帰化人や、唐土で教えを受けた人たちは世界有数の知識人でした。

そんな人たちから学んだ空海も、仏教のほかにも文化や科学・社会的な知識が豊富。これが「法力」伝説の源泉だと考えられるんです。

ストーリーでは、空海が怪異に遭遇してもあわてず解決へと導きます。それはあらゆる知識を駆使して怪異の正体を推測・検証できるから。

また日本各地には空海が有名温泉を「開湯」した伝説が存在します。例えば伊豆の修善寺温泉、愛媛・松山の東道後温泉 etc 。

さらには空海が「杖をついたところから水が湧き出た」などの「弘法水」伝説も各地にたくさんあるんです。

空海には唐の知識人から学んだ土木地勢地形の知識もあったはず。温泉や水源がある地形が分かった可能性があります。

さらには讃岐うどん手こね寿司などの名物名産も「空海由来」とされる伝承があります。これらに空海が関わっているのか定かではありません。

でも空海が開いた真言密教を広めるため、各地に赴いた弟子たちが師から学んだ知識を駆使。

現地の人たちが感謝の思いを込めた伝承になったと考えることができます。

空海が持つ知識は、唐土で遭遇した怪異を解決する原動力になっている。そう考えて作品を読むとストーリーをもっと楽しむことができますよ。

3.「餓狼伝」

★漫画版でも人気の総合格闘技小説


1985年に双葉社から書き下ろしの新書が発売され、以降も単行本が13巻まで刊行。


2006年以降は「小説推理」でタイトルを「新・餓狼伝」と変えて連載。単行本も計5巻が発売中。


ワタシが第1巻を試し読みしてハマった長編作品です。


漫画版も小説誌「獅子王」で1989年2月号から1990年4月号まで、谷口ジローさんの作画で連載。


さらに板垣恵介さんの作画により「コミックバーズ」で1996年からスタート。


ヤングマガジンアッパーズ」「イブニング」「週刊少年チャンピオン」と移籍し、高評価を獲得しています。


また実写映画版も1995年に公開。極真空手の八巻健志さん、プロレスラーの石川雄規さんらが出演。人気となりました。


★登場人物とあらすじ


主人公は丹波文七(たんば・ぶんしち)。

空手の使い手で、キックボクシングなどの打撃技、サンボの関節技なども習得した流浪の格闘家です。

奈良の街に丹波が現れる。古武術・武宮流の泉宗一郎に挑戦するためだった。

雑木林の中での真剣勝負。禁じ手がなく死闘となったが丹波は泉を打ち倒す。

丹波は体と技を鍛え上げ実戦を積んでいた。6年前の敗北がきっかけだった。

東洋プロレスに道場破りで乗り込み、前座レスラー梶原年雄と対戦。丹波は打撃をたたき込むが、梶原の関節技に屈する。

敗北後、丹波は格闘家としてさらに強くなるため関節技の習得に汗を流す。

6年後、梶原が海外遠征から帰国したニュースを知り、いてもたってもいられず東京へ…。

丹波は東京で梶原と再会。再び戦うことになります。

迫力の格闘シーンの連続です!

★異種格闘技戦が放つ殺気とスピード感

ストーリーには空手、柔道、古武術、ブラジリアン柔術、プロレスの使い手たちが登場。


強さを求めて体と技を鍛え上げ、自分が最強であることを証明するために激突する。


打撃と関節技、スープレックスの達人たちがセメント(真剣勝負)で対決したらどうなるのか? どちらが勝つのか? 


作品は格闘技ファンが常に考えている疑問に答えてくれます。


第1巻の冒頭で登場する丹波の道場破りシーン。スープレックス、関節技のテクをもちながら前座に甘んじる実力者の梶原との対決はド迫力。

丹波はキレ、スピードがバツグンのキックを繰り出し、梶原の体に重いダメージを与えていく。

梶原は多くの技を受けて魅せるプロレスラー。空手の有段者でもある。打撃をいなし打たれ強さも発揮して丹波を捕まえにいく。

レスラーに捕まったら終わり。丹波は承知しながら追い詰められ、関節技を極められ敗れる。

打撃VSサブミッション(関節技)。打たれ強さ、体重差。さまざまな条件のもとで激突した結末が分かるんです。

うなりを上げる打撃。2人の苦しそうな息づかい。関節がきしむ音。激痛。


ファイトシーンの描写は細かくて分かりやすい。脳内でイメージさせる筆力がバツグンで〝リアル〟に伝わってきます。


戦国時代から続く古武術の技の描写も頭の中に浮かび上がるほどうまくて、迫力十分です。


★憧れのファイターがモデルで感情移入できる


登場するファイターには、モデルがいるそうです。


前座からメーンイベンターになった梶原。フルコンタクト(直接打撃)空手・北辰会館の黒帯で蹴り技もスゴイ。まさに格闘王・前田日明さん。


東洋プロレス社長のグレート巽はメインイベンター。ブラジル出身でバーリトゥードにも出場。アントニオ猪木さんです。


北辰会館の館長・松尾象山はケンカ屋で空手最強の証明を目指す。巽ともつながりがある。まさに大山倍達さん。


格闘技ファンが好きな、憧れのファイターの姿が登場キャラに投影されている。だから感情移入ができてコーフンする。


夢枕さんは格闘技、プロレスへの造詣が深く、大好きな人。日本のフクザツな格闘技史も作品の背景になっています。


空手界とプロレス界のバチバチだった関係も反映されているので「そうそう、そういう構図なんだよね」とうなずいちゃう。


総合格闘技ファンの方はぜひ「餓狼伝」シリーズをお読みください。オナカいっぱい満喫できますよ。


4.「仰天 平成元年の空手チョップ」

★プロレスファンなら夢見てしまう世紀の一戦


集英社のPR誌「青春と読書」で1989年から1993年まで連載。


1993年に単行本、1996年に文庫本が発売されています。


前項で紹介した「餓狼伝」など格闘技がテーマになる小説を発表している夢枕さんは、前述したように大のプロレスファン


「餓狼伝」でも、昭和・平成のリングで活躍したスター選手がモデルになっているプロレスラーが登場しました。


一方の「仰天 平成元年の空手チョップ」のリングには、実在(した)のレスラーたちが実名で参戦。


そしてストーリーの主人公はタイトル中の「空手チョップ」から連想できちゃう。そう、日本のプロレスの父・力道山なんです。


★登場人物とあらすじ


力道山は大相撲時代には関脇を務めた実力派力士。プロレスに転向してからは米のマット界で武者修行。


帰国後に「日本プロレス」を創立。1954年の旗揚げ興行では全国で14連戦を敢行。シャープ兄弟と死闘を演じてプロレス人気が爆発。


1954年の「巌流島決戦」では昭和の柔道王・木村政彦さんを下し、日本のリングに君臨しました。


絶頂の中、1963年にケンカで負ったケガが悪化し死去…。でも、もし力道山が生きていて現在のリングに復活したら…。


そんなプロレスファンの夢を、夢枕さんがストーリー上で〝実現〟してくれたんです。


時は平成元年(1989年)。東京ドームではUWFの大会が開催。「格闘王」前田日明の異種格闘技戦が行われていた。


東京ドームの観客席では、ハンチング帽の男がリングを見つめている。


男は「あの小僧(前田)とセメントで闘いてえ。前座はおめえたちだ」。


そう命じたのは、プロレスの父・力道山。命じられたのは、かつて弟子だったジャイアント馬場とアントニオ猪木だった。


力道山は昭和の昔に亡くなったはず。だが医療技術が発達している未来で治療を受けるため、冷凍睡眠が施されていた。


力道山は平成元年、27年間の長い眠りから目覚め再びリングに上がると宣言。そしてメインイベントの相手に前田さんを指名。


さらに前座として、弟子だった馬場さんと猪木さんにシングル対決を厳命。プロレスファンから見れば、ダブルメインイベント級の試合です!

★プロレスファンに夢を与える


しかし、長い眠りから覚めた力道山がいきなりリングに上がる。しかも相手は平成の格闘界をリードしたUWFの前田さん。


プロレスの父といえど、無茶がすぎます。


冷凍睡眠から覚醒後、治療を受けて回復したとはいえリハビリは必要。闘うための体を作り直さないといけない。


しかも「格闘王」前田さんとセメント(真剣勝負)。悲惨な結末にもなりかねない。でも力道山は「」を強調します。


「力道山は長生きするために生きてるんじゃない。夢のために生きている」


「みんなの夢ですよ。全ての人間の夢のために、この力道山は生きているんですぜ」


日本のプロレスの父で当時は最強を誇った力道山。そして平成のリングを一世風靡した格闘王・前田さん。


もし両者が闘えば、どちらが勝つのか⁉︎ 最強はどっちなのか⁉︎


プロレスファンの間では「これまでの強豪レスラーが全盛時代に闘ったら、だれが最強なのか⁉︎」。


そんな話題が常に上がっています。この答えを知ることもプロレスファンの夢。


夢枕さんは、そんな答えの1つである「プロレスの父VS格闘王」をストーリーで〝実現〟してくれたわけです。


そして、もう1つの夢が「和解」。ストーリーには力道山のライバルだった木村政彦さんも登場します。


力道山と木村さんには「巌流島」の因縁があり、最後まで2人が和解することはありませんでした。


両雄をリスペクトする夢枕さんは、ストーリー上で「和解」を実現。その描写もちょっと粋でスカッとする。


ぜひ作品で読んでいただきたい名シーンの1つです。


当ブログでは力道山と木村さんの巌流島決戦についても紹介しています。ぜひご覧ください。


「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」昭和の柔道王の物語でわかる「日本格闘技黎明史」4つの真実


★平成のプロレス界が分かる


力道山とセメントで闘う前田さん。当時は多彩なスープレックスと破壊力バツグンのキックで「格闘王」の称号を誇るレスラー。


現在の総合格闘技ブームの源流となった団体「UWF」を設立した人物です。


東京ドームで力道山が観戦したのは、平成元年に開催された「UーCOSMOS」。6万人を動員した第2次UWF全盛期の大会でした。


これまでのプロレス興行とは一線を画した演出がバリバリ。試合前の選手入場式、まばゆいレーザー光線、気分が上がる音楽。


しかもファイトスタイルはスープレックス・打撃・サブミッション(関節技)。夢枕さんも当時の大会を観戦して絶賛していました。


そんな平成の熱狂を夢枕さんがストーリーに反映。観客席でリングを見つめる力道山の血が騒ぐ。うまい設定です。


登場人物も馬場&猪木の「BI砲」をはじめ、藤波辰爾さん、ジャンボ鶴田さん、長州力さん、天龍源一郎さん、初代タイガーマスク etc。


昭和〜平成の名レスラーたちが実名で登場。平成のプロレス界の熱量があふれ、プロレスファンの夢もかなえている。


夢枕さんのペンネームにふさわしい、夢にあふれた作品です。


まとめ・大長編シリーズにも挑戦したくなる


夢枕ワールドにハマると大長編に挑戦したくなる

ここまで夢枕さんの数多い作品の中からオススメや、夢枕作品にハマり「まだ読んでいない傑作を読みたい人に向けた作品をチョイス。

  1. 「荒野に獣 慟哭す」
  2. 「沙門空海唐の国にて鬼と宴す」
  3. 「餓狼伝」
  4. 「仰天 平成元年の空手チョップ」

上記の4作品について紹介&解説してきました。だから、

夢枕獏さんの小説を読んでみたいけど、たくさんあって選ぶのに迷っちゃう

陰陽師や神々の山嶺など代表作を読んで夢枕さんの作品にハマりました。まだ読んでいない中で面白い作品を教えて!

ヒットしたシリーズはすごく長いので(笑)ほどよい長さの面白い作品を教えて

なんて悩んでいた方は、この記事を読んで4作品の面白さや魅力が分かってナットク&マンゾク

さらに「まだ読んでいない面白い作品を選ぶ参考になったと思います

この4作品を読むことで、さらに夢枕ワールドにドップリハマるはず。

「キマイラ・吼」&「闇狩り師」シリーズやSFモノ「サイコダイバー」シリーズなど、大長編シリーズにも挑戦したくなりますよ。

この記事では、夢枕さんの代表作「陰陽師」や「神々の山嶺」についても紹介しています。ぜひ、ご覧ください。


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