殺し屋マンガは人気ジャンル |
自分の稼業に葛藤し、生まれ変わろうと奮闘するヒューマンストーリー
インターネット上などでもオススメ作品を探し求めている投稿をよく目にします。
中でも目立つのは、
「主人公が自分の稼業に疑問を持って苦しんで、やがて人間性に目覚めるような作品ってありますか」
「人を傷つけることをためらい、真っ当な人間に生まれ変わろうとする主人公の作品があるそうですが、読んでみたい」
という声です。
主人公はスゴ腕。しかし、人に危害を加える自分の稼業に疑問を持ち、苦しんでいる。
心の中の葛藤(かっとう)を乗り越え、普通の人や「新しい自分」に生まれ変わろうとしている。
そんな主人公のヒューマンストーリー。人間の再生の物語を求めている人が多いんです。
でも「殺し屋マンガ」はたくさんあって、選ぶのも困っちゃうほど。
この記事では数多い作品の中から、オススメの傑作3作品をチョイス。
- 「ザ・ファブル」(原作・南勝久さん)
- 「あずみ」(原作・小山ゆうさん)
- 「クライングフリーマン」(原作・小池一夫さん、作画・池上遼一さん)
上記の3作品について紹介&解説します。
いずれもスゴ腕の主人公。でも、人を傷つけることに苦しみ、涙を流す。真っ当な人間に生まれ変わろうと奮闘している。
「新しい自分」を目指すヒューマンストーリーがメチャ魅力的です。記事を読めば、
「主人公が自分の稼業に疑問を持って苦しんで、やがて人間性に目覚めるような作品ってありますか」
「人を傷つけることをためらい、真っ当な人間に生まれ変わろうとする主人公の作品があるそうですが、読んでみたい」
という方は絶対にマンゾク&ナットク。3作品が読みたくなりますよ!
ただ、記事中で紹介している「人を傷つけるシーン」は絶対にマネしないでくださいね。
3作品をチョイスした理由
「殺し屋マンガ」の代表作といえば、さいとう・たかをさんの「ゴルゴ13」。
主人公は国籍、経歴、年齢不明の超A級スナイパー「デューク東郷」。超人的な狙撃能力を誇る主人公が人気です。
最近ではスゴ腕に加えて、「風変わり」で「心の闇」「心の葛藤に苦しむ」という要素が入った主人公がトレンド。
主人公のヒューマンストーリーもファンから求められる要素になっています。この記事で紹介する3作品は、
- 主人公はスゴ腕なのに、人を傷つけることに疑問を持ち葛藤する人間性の描写。
- 主人公の生い立ちなどの原因や「心の闇」などの背景の設定や描写が巧み。
- 主人公が葛藤を乗り越え、「新しい自分」に生まれ変わるために奮闘する共感性。
上記の3つの要素と魅力が際立っていることがチョイスした理由です。
ここからは1作品ずつ紹介&解説していきます。
1.「ザ・ファブル」
原作は南勝久さん。「週刊ヤングマガジン」で2014年49号から2019年51号まで第一部が連載。
2021年34号から第二部「ザ・ファブル The second contact」が連載。
コミックスは第一部が全22巻、第二部は第9巻が発売中(2024年11月時点)。
2019年6月には、岡田准一さん主演で実写映画化されています。
★あらすじ
主人公は「佐藤明」。子どものころから組織の「ボス」に指導された、超人的なアサシン。
伝説的なまでに強いため裏社会の人間に「ファブル」(寓話=おとぎ話)と呼ばれています。
「ファブル」は〝デビュー〟して6年で71人を〝始末〟している。
「ボス」はやりすぎたと考え「ファブル」の正体が暴かれ足がつくことを恐れる。
「ファブル」を守るため「1年ほど休養して、もぐる」ことを決める。
「ボス」は現金5000万円、「佐藤明」の偽名を使った運転免許証、保険証を渡す。
「ナビゲーター」の「佐藤洋子」と「兄妹」として、組織がつながりを持つ大阪の暴力団の元で潜伏させる。
「一般人」として振る舞い、休業中に〝仕事〟した場合はボスが「佐藤」らを始末するとクギを刺した。
「ファブル」は運転免許証に記された「佐藤明」として、大阪での生活を始めます。
★殺さない殺し屋
「佐藤」は大阪の暴力団「真黒組」に身を寄せる。「佐藤」の正体は組長の浜田、若頭の海老原だけが知っている。海老原は「佐藤」が「シリアルキラー」で、組や街に悪い影響を及ぼすと考える。「佐藤」を街から追い出そうと、組の若い衆に行動を監視させる。
まさに「ザ・ファブル」という作品のキモ。ファンから支持を集める最大の魅力です。
「佐藤」はチンピラと元キックボクサーの「戦闘力」を瞬時に把握。チンピラのパンチをひたいで受けて指をくだき、回し蹴りをひじで受けてスネを打撲させる。さらに痛いふり、蹴りが当たったふりを見せて相手を油断させる。元キックボクサーの蹴りはスリッピングで衝撃を流し、わざと吹っ飛ぶ。ジャブはわざと鼻にもらって「鼻血を流そう」。鼻血と涙を流し「すいません、すいません」とあやまりまくる。2人が引き上げ、心の中で「どうー⁉︎この情けない姿!まさにプロ!!」。
★「佐藤明」の生い立ち
元レスラーは「佐藤」を〝始末〟すれば「借金チャラ」。なので闘志満々。〝シバリ〟がある「佐藤」は瞬時に元レスラーに迫り、パンチをノドに打ち込む。元レスラーは戦闘不能。「佐藤」は「あとはおまえらの好きにしろ」。トドメをさせと迫る海老原に、「佐藤」は「殺せるからって 殺したいわけじゃない」と強調する。「佐藤」は「誰も殺さずに静かに暮らしてみたい」と海老原に頭を下げる。
超人的なテクニックを持つ一方で、無益な〝仕事〟はしたくない「佐藤」。
「佐藤」の風変わりな原因は生い立ちにあります。
「佐藤」は〝ものごころ〟がつく前から「ボス」に訓練を受けていた。
「相手を6秒以内に倒せ」という教えを忠実に実行するため射撃、格闘術をマスター。
森の中に放置され、ナイフ一本だけで生還する訓練も受ける。虫などを食べて飢えをしのいだ。
子どもの成長や人間性の形成に必要な、親や友だちとの生活の経験はまったくなし。
だから「一般人」と比べると人格がスナオでイビツ。
「プロ」として「ボス」の指示を忠実に守り、実行することに誇りがある。
正確無比な〝仕事〟ぶりの原動力ともいえます。
「ボス」が1年間の潜伏を命じたのは「佐藤」が仕事師としてトンデモなく成長したから。
「ボス」は「一般人」として仕事を持つこと、ペットを飼うことを指示。
「佐藤」はデザイン制作会社で、時給800円で働く。インコの「カシラ」を飼い始める。
「佐藤」が超絶テクを使って人を傷つけまいと努力する姿。「一般人」であろうとする「佐藤」の姿が、ファンの共感を呼ぶんです。
このまま「佐藤」は「一般人」になれるのかー。
「新しい自分」になろうと奮闘する主人公の物語。続きは作品をごらんください。
2.「あずみ」
原作は小山ゆうさん。「ビッグコミックスペリオール」で1994年14号から2008年23号まで連載。
コミックスは全48巻、文庫版も24巻が刊行されています。
続編「AZUMI」が2009年2号から2014年6号まで掲載。コミックスは全18巻が発売されています。
1997年度の第一回文化庁メディア芸術祭マンガ部門の優秀賞を受賞。
2003年には上戸彩さん主演で実写映画化。2005年に続編「あずみ2 Death or Love」が公開されました。
幼いころから刺客として育てられた美少女が、ターゲットを倒し、傷つけることに苦悩する姿を描いています。
★あらすじ
家康のブレーン僧・天海は幕府と天下泰平を維持するため、反乱の芽をつむ暗殺集団をつくる。天海の命を受けた小幡月斎(爺)は10人の子どもたちを拾って剣技を仕込み育てる。爺は刺客としての最終試験で、10人の子どもたちに仲がいい者を組ませて戦わせる。あずみら生き残った5人は、爺とともに天下泰平のための「枝打ち(暗殺)」の使命を果たし続ける。
遊びの一つのように、剣技を学んでいる。純粋培養ですね。
爺が最終試験を行ったのは、どんな状況でも非情に剣を振るえるようにするため。
呪いの手法の一つに「蠱毒(こどく)」というものがあるそうです。
たくさんの毒虫などを箱やツボに集めて共食いさせる。生き残った一匹を呪術に使うヤツ。
いい方は悪いですが、あずみら生き残った5人をイメージしてしまう。
あずみは、そんな非情の世界で育ちました。
★無類の強さ
人の頭の上を簡単に飛び越える跳躍力。相手との距離を一気に詰める走力。敵が投げた手裏剣を手でつかむ動体視力。剣技でも身体能力を生かす。ツカ頭にも刃がついた双頭剣で敵を瞬時にスパッ。50〜60人の集団と戦っても、かすり傷一つ負わずに全滅させる。
爺の最終試験。あずみはひそかに好きだった「なち」を戸惑いながら倒す。「枝打ち」での侵入先では、自分に優しくしてくれる相手を手にかける。一方で、始末しろと命じられた人たちは本当に悪い人たちなのか?と悩む。
あずみは天真らんまん。素直な性格。ピュアなハート。
女性や子どもたち、自分に優しくしてくれる人たちには好意を返したい。
〝仕事〟を重ねることで、従っていた爺の言動に疑問を持つ。自我が芽生えるんですね。
「人を傷つけたくない」。心の中で強く思っている。
でも時代は戦国末期。女の子が一人で生きていくには厳しい時代です。
多くの女性は武家や商家へお嫁にいくか、奉公する。一方で身を売る人もいる。
あずみは〝自分一人で生きていく〟という誇りを捨てたくない。心の中で葛藤して苦しむ。
「枝打ち」を終えたあと、あずみは血まみれになった体を清めるため、服を脱いで川や滝に入ります。
流れの中で、あずみの体についた血が洗い流されていく。
リセットされるあずみの姿が、とても美しくて切ないんです。
「人を傷つけたくない」という思いを抱きながら、刺客の美少女はどう歩んでいくのか。
「新しい自分」を探す、あずみの物語。続きは作品をごらんください。
3.「クライング フリーマン」
「ビッグコミックスピリッツ」で1986年4月14日号から1988年5月5日号まで連載。
コミックスは全9巻、文庫版は全10巻まで発売。1988年にはアニメ化されOVAが発売。
1990年に香港で、1995年には日米合作で実写映画化されました。
★あらすじ
主人公は陶芸家の火野村窯(よう)。新進気鋭で天才的な陶芸家です。
チャイニーズマフィア「百八竜(ハンドレッド・エイト・ドラゴン)」によって、刺客に仕立て上げられます。
火野村はニューヨークでの個展の際、百八竜による殺人現場のネガフィルムを手にしてしまう。百八竜からフィルムの引き渡しを要求されたが拒否。そのため拉致されてしまう。百八竜は火野村に刺客としての天才的な素質を見い出し、強力な催眠暗示をかけ刺客に仕立て上げる。百八竜は組織の手から自由になりたいという火野村の願望を受けて「フリーマン」というコードネームをつける。百八竜の刺客となった火野村は「フリーマン」として天才的な〝仕事〟を果たしていく。
百八竜は刺客に必要な条件を火野村に見い出し、訓練をほどこしてスキルを仕込みます。
火野村は〝任務〟完了後に涙を流す風変わりな姿から、組織の内外で「クライング・フリーマン」と呼ばれます。
★涙を流す殺し屋
なぜ火野村は〝仕事〟を終えた後に涙を流すのか。理由は組織にかけられた後催眠です。
百八竜に拉致された火野村は、小脳と脳下垂体にハリを打たれる。火野村の潜在意識に命令を受け入れることを埋め込むためだった。催眠のキーワードは「殺せ」。潜在意識に埋め込まれた暗示が「殺せ」という言葉で発動する。
〝任務〟を終えた瞬間、後催眠から解放される。刺客から「火野村」に戻れるというかなしい解放感が涙を流させる。
★百八竜の頭領へ
組織から刺客としての素質を買われ鍛えられた火野村。スキルに天才的な冴えを見せます。
相手の攻撃からの回避運動中でも射撃は正確無比。仕込まれたナイフ術やカンフーも超人的な強さ。
組織は頭領・百八竜の妻で組織のNo.2、虎風鈴を訓練の指導役につけます。
虎風鈴は99歳と高齢だがカンフーの達人。刺客に襲われても瞬殺する強者。虎風鈴は火野村に足の指ではしを使い食事させる。手と変わらず足で食べることができれば、足で武器を使うことができる。体のバランスと跳躍力をつけるため、池の中に竹をさして並べて、その上を歩いて池を渡らせる。訓練を何度も繰り返し、火野村は足の指ではしを使い、竹の上をジャンプして池を渡るほどになる。
火野村の中に「天に昇る竜」をみた組織は、刺客ながら彼を百八竜の頭領にするんです。
★運命を受け入れながら「新しい自分」として生きる
潜在意識に「陶芸家・火野村窯」に戻りたい気持ちが残る火野村。この気持ちと決別する選択をします。
日本人女性、日野絵霧(ひの・えむ)を妻に迎えるためでした。
絵霧は女性画家。メガネをかけた知的な美女。香港で火野村の〝仕事〟を目撃。火野村の顔をみたことで自身の死を覚悟しつつ、火野村への思いを募らせる。絵霧は天涯孤独。男も知らなかった。「自分を殺す前に女にしてほしい」。そんな思いを胸に、火野村を待った。日本で2人は再会。女を知らなかった火野村は、絵霧の思いを受け入れ愛し合う。火野村は絵霧に手を下そうとするができない。絵霧を妻に迎える決意をする。
組織からそう告げられ、火野村は過去を捨て百八竜のリーダーとして生きることを決意します。
火野村は「竜太陽」、絵霧は「虎清蘭」と名前をかえ、夫婦で組織のトップとして生きるんです。
池上さんの劇画調のタッチはストーリーにめちゃマッチ。
火野村の涙を流す姿。組織のNo.2になった絵霧のキリリとした姿。戦闘シーンも美しい。
火野村の設定は、連載当時の1980年代後半では珍しいキャラでした。
百八竜のツートップとして生まれ変わった火野村と絵霧。2人はどう生きていくのか。
続きは作品をごらんください。
まとめ・葛藤する主人公が「新しい自分」を作り上げていく物語
「新しい自分」を探す姿に共感してしまう |
- 天涯孤独、新進気鋭の陶芸家などワケアリの生い立ち。
- スナオ、もしくは知的な性格を利用され悩み、苦しむ。
- 〝素質〟を見い出され、刺客術を仕込まれてマスター。達人になる。
スナオ、もしくは知的なだけに自分が手を下していることの意味を理解し、苦悩する。
だから主人公たちは苦しみを乗り越えるために「新しい自分」を作り上げていきます。
「佐藤明」は超絶テクで「殺さない」ことを続けて「一般人」に生まれ変わっていく。
「あずみ」は「傷つけたくない」と苦悩し「一人で生きていく」ための道を探す。
「火野村窯」は愛する絵霧を妻にするため、過去を捨てて「竜太陽」として生まれ変わる。
ワケアリの主人公が自我に目覚め、あるいは過去を捨て「新しい自分」を作り上げていく。
主人公たちと同じように「新しい自分を探している」ファンは、主人公の苦しみや生まれ変わろうとする姿に共感する。
主人公に共感できることが3作品の人気の秘密、魅力なんです。
「主人公が自分の稼業に疑問を持って苦しんで、やがて人間性に目覚めるような作品ってありますか」
「人を傷つけることをためらい、真っ当な人間に生まれ変わろうとする主人公の作品があるそうですが、読んでみたい」
そう思っている方は、ぜひ3作品をお読みください。
絶対にマンゾク、ナットクできますよ!
ただ、記事中で紹介した「人を傷つけるシーン」は絶対にマネしないでくださいね。
当ブログではほかにも「仕事人マンガ」について紹介しています。ぜひ、ごらんください。
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