作品にはロックのリズムが流れている |
レジェンド作家&名作の特徴や魅力が分かる
ギャグ漫画はいつの時代でも人気で王道のジャンル。昭和〜平成〜令和の3時代で、たくさんの作品が発表されています。
そんなギャグ漫画の中でも「伝説の作品」と高い評価を受けているのが、鴨川つばめさんの「マカロニほうれん荘」。
1970(昭和50)年代のギャグ漫画の代表作「がきデカ」(山上たつひこさん)、「すすめ!!パイレーツ」(江口寿史さん)。
この2作品に並ぶ人気作品として昭和の漫画界を一世風靡しました。
驚くべきことに、令和の今でも昭和生まれのコミックスが重版され発売中。
紙の単行本は大手書店やアマゾンなどのネットショップで購入が可能。もちろん電子書籍版もそろっています。
それだけに作品を読んだことのない漫画ファンは関心があるようで、
「ギャグ漫画のレジェンドとされてるけど、どんなことが評価されているの?」
「私が生まれる前の作品だけど名作なの? 令和の今の感覚で読んでも面白い?」
「鴨川さんは連載当時に天才と呼ばれたみたいだけど、どんな漫画家さんだったの?」
そんな声がたくさんあるんです。この記事では「マカロニほうれん荘」が「伝説のギャグ漫画」と評価される理由と作品の秘密&魅力を紹介。
- 伝説的作品の強烈すぎる主人公&登場人物とあらすじ
- ロック、ミリタリー、ヒーローものなどサブカル満載のパロディ
- ライバル漫画家をおびやかした作品のクオリティー
- 鴨川さんの天才性と出版社の冷遇による苦闘の日々
上記の4点について解説します。
この記事を読めば「マカロニほうれん荘」が「伝説の漫画」と評価される理由や作品の特徴&ギャグの魅力がバッチリ分かる。
鴨川さんの人柄や連載当時のエピソードも分かってナットク&マンゾク。単行本を手にとってページを開きたくなりますよ。
「マカロニほうれん荘」と鴨川つばめさんについて
★令和の時代まで重版が行われるレジェンド作品
改めて、著者はギャグ漫画家の鴨川つばめさん。「週刊少年チャンピオン」で1977年から1979年まで連載。
コミックスは全9巻が刊行。昭和に発表された作品ですが現在も「少年チャンピオン・コミックス」から重版が行われて発売中。
大手書店などで店頭に並び、電子書籍版も発売されています。
昭和期の人気作品は、紙のコミックスでは新装版が出たり電子書籍版で復活しています。
でも、昭和の刊行当時から現在まで同じコミックスが発売され続けているのは珍しい。めっちゃスゴいことです!
★少年チャンピオンの黄金期をリード
作品が連載されていた当時のチャンピオンでは「ブラックジャック」(手塚治虫さん)、「ドカベン」(水島新司さん)。
「がきデカ」(山上たつひこさん)、「エコエコアザラク」(古賀新一さん)など人気ヒット作がズラリ。
文字通り、チャンピオン黄金時代の1977年に「マカロニほうれん荘」が登場。一気に人気作品に躍り出ました。
他誌では週刊少年ジャンプの野球ギャグ漫画「すすめ!!パイレーツ」(江口寿史さん)との人気争いも展開。
「がきデカ」「すすめ!!パイレーツ」そして「マカロニほうれん荘」は1970年代を代表するギャグ漫画となりました。
★20歳の才能が爆発
鴨川さんは1957(昭和32)年生まれ、福岡県出身です。
劇画家・バロン吉元さんのアシスタントを務め、1975(昭和50)年に週刊少年ジャンプで「ドラゴン危機一髪」でデビュー。
その後、少年チャンピオンに移り数本の読み切りを発表。さらに月刊少年チャンピオンで「ぷるぷるプロペラ」を発表。
1977年、月刊少年チャンピオンでの「ドラネコロック」と同時に週刊少年チャンピオンで「マカロニほうれん荘」の連載をスタート。
連載スタート当時の鴨川さんは、なんと20歳の若さ!
「マカロニほうれん荘」は若さとセンス、こだわりの趣味など鴨川ワールドが大全開。大ヒット&人気作品になりました。
その裏では作品の執筆をめぐって、鴨川さんの奮闘と苦闘が展開されるなどヒューマンストーリーもスゴい(後述)。
ここからは「マカロニほうれん荘」が「レジェンド」と評価される理由や作品の特徴&ギャグの魅力を解説。
鴨川さんの人柄や連載当時のヒューマンストーリーも紹介していきます。
1.レジェンド作品の強烈すぎる登場人物&主人公とあらすじ
作品には昭和のサブカルがあふれている |
★ポップアートでギャグを展開
「マカロニほうれん荘」には作品全体のテーマやストーリーはなし。1話完結のギャグ。
1つの〝お題〟を3人の主人公をはじめとした登場人物たちが、パロディギャグを畳みかけて転がしていく。
ページで展開されるパロディはヒーロー&怪獣特撮モノ、漫画、ロック、ミリタリー、プロレス etc。
連載当時の昭和を象徴するサブカルチャーが詰め込まれている感じ(後述)。
鴨川さんが描く絵も柔らかくてオシャレ。特に女性がめっちゃカワイイ&キレイ!
サブカルを盛り込んだポップアートでギャグを展開しているイメージです。
★主な登場人物
主人公は3人。そして3人の名前自体がパロディになっています。
【沖田総司(おきた・そうじ)=通称そうじ】
ピーマン学園高校1年生。美術部に所属するまじめで成績優秀なハンサム男子。優しくてお人好し。
【膝方歳三(ひざかた・としぞう)=トシちゃん】
学園落第10回生で25歳。長身でグラサンと口ヒゲのイケメン。カマキリ拳法はじめ武道&スポーツ万能。超人的な体力。
【金藤日陽(きんどー・にちよう)=きんどーさん】
学園落第24回生で40歳。男だけど女性の言葉づかいをする乙女。大きな目とくちびるが目立つ2頭身半。わがままなヒト。
この3人の名前。もうお気づきでしょうが、幕末に風雲を巻き起こした新撰組の3幹部が由来。
一番隊組長・沖田総司。鬼の副長・土方歳三。局長・近藤勇。3人のパロディ。
きんどーさんの場合は「金・土・日曜」というダジャレも含まれています(笑)。
そうじが〝おふざけの権化〟トシちゃん&きんどーさんの全身を使ったスラップスティックなギャグに巻き込まれる。
3人が暮らす下宿の娘・姫野かおり(美女)。学園の教師・後藤熊男&八千草文子(美女)。女子大生・斎藤ルミ子(美女) etc。
ほかの登場人物たちも翻弄されつつギャグを披露。そんなイメージです。
★作品の舞台とあらすじ
そうじは入学式の日、校庭でスカートめくりをしているOBのような2人に遭遇。クラスには2人もいる。ひざかたは落第10回生、きんどーは落第24回生。自己紹介がてらの隠し芸にクラスは大混乱。放課後に向かった下宿でかおりにあいさつ。かおりは「2人変なのがいるけど付き合っちゃダメ」とクギをさす。2人はトシちゃん&きんどーさん。届けられたそうじの生活用具を勝手に売ったり、部屋に居座ったり。2人に巻き込まれたそうじたちの不条理でおかしな同居&学園生活が始まり…。
ひとコマごとにギャグが詰めこまれていて、ギャグが決まるごとにひざかたが「トシちゃん感激〜!」。
その横できんどーさんが「うひょひょひょひょ」。決めゼリフが響き渡るんです。
2.ヒーロー・怪獣特撮&ロック&ミリタリーなどサブカル満載パロディ
★昭和のサブカルをフルパロディ化
「マカロニほうれん荘」の特徴は、昭和を象徴するサブカルチャーをパロディ化してギャグを展開していること。これに尽きます。
作品に登場するサブカルはヒーロー&怪獣の特撮モノ。人気漫画。ロック。ミリタリーモノなど。
キャラが常にふん装しながら登場してコマが展開したり。1つの作品をパロった短いストーリーが進行したり。
ロックスターが登場人物として巻き込まれたり。ロックファンが読めば「あっ、このキャラはあのスターがモデルだっ!」と大喜び。
読者それぞれが大好きなサブカルが、絶対に1つは登場するから必ずハマる。
さらに登場人物が体を張ってギャグを展開しまくる。それゆえスラップスティックギャグとして語り継がれているんです。
ここからはパロディ化された主なサブカルテーマをくわしく紹介します。
★ヒーロー&怪獣の特撮モノ
ヒーローや怪獣の特撮モノは、トシちゃん&きんどーさんの必須アイテム。
そう断言していいほど登場します(笑)。そして昭和を代表するヒーローモノといえば、ウルトラマンシリーズです。
始まりはコミックス第1巻に収録されている「負けるな!ひざかたさん」。きんどーさんが「ウルトラマンレオ」に変身します。
ウルトラマンレオは「ウルトラQ」を含めたウルトラシリーズ7作目。
きんどーさんは胸に逆さの「俺」マークをつけた「サルトラマンレオ」を披露。
「どしゃぶりロック」(第2巻)では、トシちゃんが「帰ってきたウルトラマン」のウルトラマンジャック姿を披露。
その最終ページではウルトラセブン、エース、カネゴン、ピグモンに変身。さらにゴジラ、モスラ、ラドンら東宝の怪獣軍団に変化。
そして仮面ライダーとアマゾン。ジャイアントロボなど、昭和の子どもたちのハートを捕らえたヒーロー姿で登場。
彼らが1ページまるごとで大暴れ! そうじの「もーイヤ、こんな生活」とかおりの「あたし、もう、くずれそう」で落とす。
2人のラストの決めゼリフが登場したエピソード。まるごと1ページのラストも作品の特徴になりました(後述)。
★1970年代のロックスターたちや衣装がカッコいい
「マカロニほうれん荘」でレギュラー的に登場するサブカル要素の1つが、ロック。
ロックが大好きという鴨川さんのこだわりがあふれています。
だからロックファンが読むと「ページを開くとロックのリズムが流れている」とうなるほど。
1970年代に世界中をわかせたレッド・ツェッペリン、キッス、クイーンなどのレジェンドバンドとそのメンバーたち。
さらに世界中のロックファンが憧れて身につけたステージ衣装がバンバン登場します。
何といってもコミックス第1巻の表紙カバー(上の写真)。中央のトシちゃんは、まさにレッド・ツェッペリンのギタリスト風。
おそらく「世界三大ギタリスト」と評されたエリック・クラプトンさん、ジェフ・ベックさんに並ぶジミー・ページさんがモチーフ。
「華麗なるアイスコーヒー」(第1巻)では、かおりが経営する喫茶店「アップルハウス」が舞台。
この店名もレジェンドバンド、ビートルズの名アルバムを発表した会社「アップル・レコード」を思い起こしてしまいます。
その「アップルハウス」にクイーンのメンバーたちが来店!
当時はBGMをお願いできる店が多くて、ギタリストのブライアン・メイさん似の男がクイーンの「華麗なるレース」をリクエスト。
対抗したトシちゃんが二葉百合子さんの「岩壁の母」をリクエストして、クイーンメンバーたちは流れる演歌にガッカリ(笑)。
「家族のきずな」(第2巻)では主要キャラたちがツェッペリン、キッス、ベイ・シティ・ローラーズの衣装で登場。
熊男先生を巻き込んで、トシちゃん&きんどーさんがドカンという爆発音をバックにギターを手にして弾けまくる。
その姿がカッコいいだけに、笑っちゃうんですよ。
★ミリタリー系の描写がめっちゃリアル
鴨川さんはミリタリー系もお好きだったようで、各エピソードにたくさん盛り込まれています。
「なにしてるんですか⁉︎」と問いただすそうじに、「敵の生き残りだっ ‼︎」とトシちゃんが戦車の機関砲で照準。「じょーだんじょーだん これタマ出ないんだよ」と笑いながら引き金を引いたらドドドドっ。
戦車を盗まれた自衛隊もピーマン学園を攻撃。しっかりリベンジされたけど、なぜかそうじが犯人として捕まっていました(笑)。
鴨川さんがこだわるようにモチーフにしたのは、戦前の旧ドイツ軍と旧日本軍。
「勇者よいずこ ‼︎」(第7巻)では、旧ドイツ軍によるイタリアの首相ムッソリーニ救出劇「グラン・サッソ襲撃事件」をパロディ化。
トシちゃんは襲撃の指揮官オットー・スコルツェニーにふんしてナチス・ドイツの軍服姿を披露しています。
「水の中の太陽」(第6巻)では、日露戦争の「軍神・広瀬中佐」のエピソードをパロディ化。
トシちゃんは広瀬少佐にふんして「杉野はどこだー」。きんどーさんに「あんたの足の下よっ ‼︎」とツッコまれる。
トシちゃんは武道全般に通じている達人。運動能力も超人並み。そして得意技は「カマキリ拳法」。
カマキリの大鎌のように両腕を構え、「チョー」という掛け声とともに腕を振ると相手が倒れたりぶっ飛んだり。
中国拳法の「蟷螂(とうろう)拳」がモデル。当時はブルース・リーさんのカンフー映画「ドラゴンシリーズ」が大ヒット。
リーさん亡き後はジャッキー・チェンさんが拳法ブームをけん引。トシちゃんの拳法は流行を反映したものです。
ただ「蟷螂拳」に関しては、1978年公開の「ジャッキー・チェンの鉄指拳」でジャッキーが披露して広く認知された感じ。
トシちゃんのカマキリ拳法は、前述の映画の前に蟷螂拳を日本に広めた功績があるんです。
さらにトシちゃんは百歩離れた相手を正拳から放つ気で倒す「百歩神拳」の使い手。最強です!
昭和のゴールデンタイムで生中継されていたプロレスもパロディ化。
トシちゃん&きんどーさんは「日本のプロレスの父」とされる力道山光浩さんに変身。
短髪のオールバックヘアと漆黒のロングタイツ姿を披露して暴れまくっています。
2人の暴走ファイトに対抗したのが、「菠薐荘」の娘・かおり。
今では見かけないシンプルなワンピース水着風のコスチューム姿でドロップキック、バックドロップを披露。ストロングビューティー!
当時はマッハ文朱さん、後継者であるジャッキー佐藤さん&マキ上田さんのビューティペアが全盛期。
女子プロのレジェンドたちのファイトをパロディ化して伝えています。
3.ライバル漫画家をおびやかした作品のクオリティー
★コマの中に詰め込んだこだわり
鴨川さんが「マカロニほうれん荘」で描いたひとコマには、濃密なまでのこだわりが詰め込まれています。
ひざかたが「トシちゃん25歳感激~!」と決めゼリフを叫ぶコマでは、ロックスターの衣装や大怪獣ゴジラの着ぐるみ。
あるコマではトシちゃんがアタマをポンとたたかれると、体からバラバラと無数の小さなトシちゃんが分身して弾けたり。
きんどーさんも「うひょひょひょ」と奇怪な笑い声をあげるコマでは、無数に分身したきんどーさんが跳ね回っていたり。
とにかく、ひとコマの中にあふれるほどのギャグ、こだわりのサブカル要素がぎっしり詰まっている。
一方でストーリーの最後では1ページまるごと使って、無数のトシちゃん&きんどーさんが暴れ回っていたり。
その表現方法は単行本の表紙にも表れています。
ホントに自由で、やりたい放題(笑)。でも、まるごと1ページのクオリティーは、まさにポップアート。
当時の漫画家さんや作家のタマゴたちは「こんな表現方法もあるのか!」と驚いたそうです。
★絵のタッチに影響を受けた山上たつひこさん
「マカロニほうれん荘」は、当時のライバル漫画家さんたちを驚かせました。
中でも鴨川さんを強く意識していたのが、週刊少年チャンピオンで先行して「がきデカ」を連載していた山上たつひこさん。
「がきデカ」は1974(昭和49)年から「マカロニほうれん荘」に先駆けて連載。
日本初の少年警察官「こまわり君」の変態ギャグが大ヒット。昭和を代表するギャグ漫画として君臨しました。
でも「がきデカ」ブームが落ち着いた1977年に、「マカロニほうれん荘」の連載がスタート。
キャラが変身(ふん装)して転がるように暴走していくストーリーが「がきデカ」に似ている上に、絵のクオリティーも高い。
そのため、山上さんは後輩の鴨川さんを強烈にライバル視。その影響からなのか、絵のタッチが鴨川さんの雰囲気に近くなる。
こまわり君の親友・西城やガールフレンドのモモちゃん&ジュンちゃんたちの目が大きくなったり、イビツな3頭身になったり。
大きな目と2頭身半のきんどーさん、無数に分身するちびトシちゃんからの影響を受けたようです。
「鴨川つばめの絵を見た瞬間、自信がぐらついた。私に勝ち目がないのはわかっていた」「圧倒的な絵の技量、疾走感、画面からロックのリズムがほとばしり出るような漫画に、戦意すら喪失してしまった」
★「打倒!鴨川」へ闘志を燃やした江口寿史さん
そして鴨川さんに大きな影響を受けたもう1人の漫画家が、江口寿史さん。
「マカロニほうれん荘」に少し遅れて、1977年に週刊少年ジャンプで「すすめ ‼︎ パイレーツ」の連載をスタート。
千葉を拠点にする貧乏球団パイレーツの選手たちのドタバタギャグが人気で、江口さんの出世作でもあります。
江口さんもギャグストーリーに昭和のサブカルチャーを盛り込み、絵のタッチもポップでオシャレ。
特に令和の今読めば、昭和のサブカルがすべて分かるほど密度の濃いギャグ作品です。
江口さんは、「パイレーツ」を執筆した原動力は「打倒!鴨川つばめ」のライバル心だったと明かしています。
「僕がいちばん憎んでましたから、鴨川つばめを。あまりにもすごすぎて」「でも、鴨川さんの連載が終わったときに一番悲しんだのは、間違いなく僕ですよ」「打倒・鴨川つばめでデビューからやってきたし、心にぽっかりと穴が開いてしまって……」
その後、代表作「AKIRA」が有名な漫画家・大友克洋さんの絵のタッチに影響を受けてイラストへ向かったそうです。
★初の個展で衝撃を与えたクオリティーの高さ
鴨川さんは2018年、ご自身では初の個人原画展「マカロニほうれん荘展」を開催。
「マカロニー」の生原稿や書き下ろし原稿をファンに公開しました。
多くのファンが見学にきた中で、連載当時に鴨川さんの作品に影響を受けた漫画家さんたちも会場を訪問。
「Bバージン」などのヒット作を誇る山田玲司さんは、「B.B.フィッシュ」などが人気の盟友・きたがわ翔さんと見学したそうです。
友人のきたがわさんも同様で、2人で鴨川さんの個展を訪れた。入口に展示された生原稿を見て、衝撃で立ち止まった。原稿には修正の跡やアシスタントの手が入っていない画面の処理、画材、コマ割りなどを検証していった。
鴨川さんの作品のクオリティーは、大ヒット漫画家の足を止めてしまうほどだったんです。
4.鴨川さんの天才性と出版社の冷遇による苦闘の日々
鴨川さんは原稿執筆で孤高の闘いを展開していた |
★鴨川さんの天才性に編集部員たちが賛否
初の原画展でファンや後輩の漫画家さんたちを、作品の高いクオリティーで驚かせた鴨川さん。
アシスタントとして師事したバロン吉元さんの下で学び、開花させた漫画の制作哲学は20歳の若さながら完璧主義といえるものでした。
デビュー前の時点で、漫画表現の技量は完成の域に近かったそうです。
鴨川さんは、かつてインタビューを受けた雑誌などに当時の自分自身の状況を語っています。
「マカロニほうれん荘」の連載をめぐっては、週刊少年チャンピオンの編集部では全部員が反対。
ここまで説明してきた鴨川さんの表現方法が斬新すぎる、これまでにないものだったからです。
反対の声が強い中、鶴のひと声で連載を決定したのが編集長の壁村耐三さん。独断だったそうです。
一方で壁村さんは鴨川さんに「おまえの漫画は、おれには分からん」。
そう語っていたそうですが、作品はメガヒットし鴨川さんは大人気作家に。
作品が醸し出すオーラから、鴨川さんの天才性を見抜いた壁村さんの眼力はスゴかったんですね。
★孤高の漫画家
圧倒的な表現力で漫画界を驚かせた鴨川さん。作品の制作は、驚くことにアシスタントをつけず1人でやっていました。
なぜ1人で原稿を描いていたのか? アシスタントを入れることを鴨川さんは「手抜き」だと考えていたから。
だから編集部や担当の方がいくら勧めても、鴨川さんは断固拒否。
強力な眠気覚まし薬を一日で10本以上飲みながら、徹夜を何日も繰り返して原稿を仕上げていたそうです。
まさに孤高の漫画制作。トンデモなく厳しい状況でも原稿の描き損じなどの修正はなく、キレイな状態!
鴨川さんは「この作品と心中してもいい」という一念で、原稿用紙に向かっていたのだとか。
まさに孤高の漫画家。身も心も削るように生み出された作品のクオリティーが高いのもうなずけます。
2018年の原画展で多くのファンや漫画家さんたちが驚き、ため息をついた理由がここにあるんです。
孤高の戦いにも限界がやってきて… |
鴨川さんが世に送り出した「マカロニほうれん荘」は作品の面白さと高いクオリティーが読者の支持を得て大ヒット。
それにもかかわらず、鴨川さんのフトコロが潤うことはなかったそうです。
理由は当時のチャンピオン編集部の方針で、若手作家の原稿料を抑えていたから。
冬には暖房をつけることができず、冷え切った部屋で原稿の作業を1人でこなす。
あかぎれだらけの手は腫れあがり、それでも「作品と心中してもいい」と心身を削りながら作業を繰り返す。
締め切りに間に合わせて作品を仕上げても、週刊連載のため次の作品の締め切りがすぐにやってくる。
たった1人での作業。しかも連日の徹夜続き。人気作家ゆえの重圧。当然ながら鴨川さんは過労でパンクしました。
鴨川さんは何度も連載終了を訴えましたが、大人気作品だけに編集部は聞き入れない。
追い込まれた鴨川さんは、わざとサインペンで作画したりストーリーも単調にするなどの強硬手段に出ました。
当時の読者だったワタシは正直「ずいぶん雑に描いてるなあ。大丈夫かな」と思ってました。
非常手段を受けて、編集部は鴨川さんの訴えを了承。「マカロニほうれん荘」は1979年に連載を終了。
★「マカロニー」後の苦闘の日々
「マカロニほうれん荘」の連載終了後、鴨川さんは「マカロニ2」などの新作を発表しますがヒットに恵まれず…。
2019年の週刊少年チャンピオン32号で、連載当時の編集部員による座談会が掲載されました。
座談会では、鴨川さんは壁村さんに潰されたようなものーという声があり、ファンにとっては辛い指摘です。
鴨川さんは、食べていくために風俗店の店員やさまざまなアルバイトをこなしていたそうです。
また「マカロニー」のキャラクターグッズなどの発売や作品の電子書籍化がなされた一方で、新作の発表はありません。
2011年の東日本大震災の影響などで社会の状況が変わっていく中で、当時のファンたちが社会の中核となっている。そんなファンたちに元気を出してほしい。
孤高で困難な作業を、作品を支持することで支えてくれたファンへの恩返しだったんですね。
鴨川さんって、ホントにスゴい人です。
まとめ・今も手に入るコミックスで鴨川ワールドを楽しもう
ここまで漫画ファンから「伝説的作品」と高い評価を受けている「マカロニほうれん荘」について紹介してきました。
そして作品が「伝説のギャグ漫画」と評価される理由と秘密&魅力について、
- 伝説的作品の強烈すぎる主人公&登場人物とあらすじ
- ロック、ミリタリー、ヒーローものなどサブカル満載のパロディ
- ライバル漫画家をおびやかした作品のクオリティー
- 鴨川さんの天才性と出版社の冷遇による苦闘の日々
上記の4点について解説してきました。
「ギャグ漫画のレジェンドとされてるけど、どんなことが評価されているの?」
「私が生まれる前の作品ですが名作なの? 令和の今の感覚で読んでも面白い?」
「鴨川さんは連載当時に天才と呼ばれたみたいだけど、どんな漫画家さんだったの?」
そんな疑問がある方は、この記事を読んだことで「伝説のギャグ漫画」とされる理由や作品の特徴&ギャグの魅力がバッチリ分かる。
さらに鴨川さんの人柄や連載当時のエピソードも知ることができて、ナットク&マンゾクできたと思います。
何よりも「マカロニほうれん荘」がスゴいのは、昭和生まれのコミックスが令和でも重版されていて購入できること。
ぜひ単行本を手にとって作品を楽しんでください。ギャグが連射されるオシャレでポップな鴨川ワールドにハマりますよ。
当ブログでは、他にも「伝説の漫画」を紹介しています。ぜひ、ご覧ください。
「がきデカ」少年警察官こまわり君が大ブームを巻き起こした変態ギャグと〝その後〟を楽しもう
「江口寿史・研究」読めば昭和カルチャーが分かる!ポップでオシャレなギャグ王の名作ベスト5
「マカロニほうれん荘」をすぐに読みたいという方は、スマホなどにダウンロードすれば即読みできる電子書籍版がオススメ。
「まんが王国」や「ebookjapan」などのマンガストアなら無料で試し読みができますよ。
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