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昭和の巨人獣もストーリーが深いぞ! |
昭和のSFヒューマンドラマを楽しみ尽くせ!
「巨人が登場する漫画」と聞いて、だれもが思い出すのは「進撃の巨人」(著者・諫山創さん)だと思います。
正体不明の巨人が人間を捕食し、人類は絶滅の危機に陥るーという衝撃的なコンセプト。平成〜令和の大ヒット作品です。
そして「進撃の巨人」よりはるか昔の昭和40年代に発表され、令和に入って再び注目を集めている作品があるんです。
漫画家・石川球太さんの「巨人獣」。SFファンタジーファンの間では、伝説的な「巨人漫画」なんです。
現在は「Amazon Kindle」などで電子書籍化されて復活。ファンから再び注目を集め始めている作品です。それだけに、
「以前、100均で漫画が売っていてタイトルを見たことがあるけど、どんな内容なの?」
「だいぶ昔に読んだことがあるけど、話が完結していなくて…。最後はどうなるの?」
そんな声が結構上がっているんです。
この記事では「巨人獣」のストーリーの内容や結末など、この作品が持つ魅力について、
- 時代を先取りした「巨人漫画」の衝撃的ストーリー
- 突然出現した巨人の脅威に混乱しまくる社会のリアルさ
- 昭和20〜40年代の社会と世相が反映された世界観
この記事を読めば「巨人獣」のストーリーの内容や結末などの魅力がよく分かります。
そして実際に作品を手にとって、ページを開きたくなりますよ!
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漫画家・石川球太さんについて
石川球太さんは1940(昭和15)年1月生まれ。神奈川県横浜市出身。
2018(平成30)年10月に78歳で亡くなりました。
高校中退後、漫画家の鈴木光明さんやうしおそうじさんに師事。
雑誌「漫画少年」への投稿をへて、1955(昭和30)年に「珍消防隊」で漫画家デビューを果たしました。
小説家・戸川幸夫さん原作の「牙王」のコミカライズ版を、1965(昭和40)年から「週刊少年マガジン」で連載。
代表作となったこの作品を皮切りに、以後は数多くの動物漫画を執筆し発表しています。
石川さんの作風は、骨太のタッチで描く劇画調のシリアスな絵柄。
そんなシリアスなタッチの中にコミカルな表現も加えることで、独特で暖かな世界観が成立しています。
また漫画制作事務所「Qプロダクション」を設立。アシスタントとして「孤独のグルメ」が代表作の谷口ジローさんが在籍。
石川さんは谷口さんとの連名で多くの作品を発表していますが、「巨人獣」も谷口さんが名を連ねている作品なんです。
次項からは「巨人獣」の魅力について、1つずつ紹介&解説していきます。
1.時代を先取りした「巨人漫画」の衝撃的ストーリー
★ダイソー版もあった名作
「巨人獣」は「週刊少年キング」1971(昭和46)年10号から1971年32号まで連載。
コミックスは全2巻が刊行。1998(平成10)年には「QJマンガ選書」から「完全版」も発売されています。
作品は昭和46年の発表。「週刊少年キング」も1982(昭和57)年に休刊となり漫画ファンから長く忘れられていました。
でも平成に入って、100円均一ショップの「ダイソー」(大創出版)が「日本の名作コミック」として60作品を発売。
60作品の中に「巨人獣」もラインアップに入っていて、多くのファンの目に止まることになりました。
ただ1冊100円という設定のため、ページ数に制限があったようです。
作品の中から削除されたページ(エピソード)があり、「巨人獣」も例外ではなかったようです。
そのため、ダイソー版を読んだファンから「結末がのってなかった」「ストーリーの最後はどうなるの?」。
「古本を検索しても分からない」なんて声が結構多かったんです。
でも令和に入ってから「Kindle」をはじめ、電子書籍版で復活したことから再びファンの注目を集めているワケです。
★巨人と化した男の苦悩
ストーリーの主人公は、トド・ウタマロ。23歳、高知県出身。
東京都内にあるボロアパートの四畳半で暮らす、会社勤めの孤独な青年です。
四畳半の部屋で眠っていたトドは、「グアーッ」と怪物のような音がする色付きの悪夢に襲われた。数時間後、目覚めたトドは自分の体が大きくなっていることに気づく。体はさらに大きくなり、部屋の天井を突き破りアパートを破壊するほどの巨体に変ぼうしてしまう。深夜のアパート周辺はパニックの場と化し、機動隊が出動。動揺する巨人に睡眠薬を入れた水を飲ませ眠らせた。
「何でこんなことになったんだ⁉︎」とトドはもだえ苦悩する。政府はとりあえず憲法にのっとって巨人を日本人として認め、基本的な人権を尊重すると決定。巨人を新宿御苑に移動させることにしたが、真夏の日差しと近眼であることが災いし巨人の移動は東京を大パニックに。眠るごとに巨人の体は大きくなり50メートル超に。機動隊が発砲し、巨人は怒りを増幅していく。
トドは自決しようと海へ向かう。機動隊や自衛隊から攻撃されても巨人は反撃を我慢し、台風が来て荒れ狂う海の中へ。大阪でも女性の巨人獣「マリ子」が出現。彼女は自分の状況に混乱して走りまくり街中を破壊。そのため攻撃されてしまう。静岡に流れ着いたトドは、新聞記者から大阪のニュースを聞かされ、女性を救おうと大阪に向かう。2人は合流。マリ子が身重だと知ったトドは、懇願して船で無人島に向かう。
トドは復しゅうのため、日本に舞い戻るんです(後述)。
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巨人獣・トドには自我があった |
★人としての自我がある巨人
以上がストーリーのざっとしたあらすじになります。
そして「巨人獣」の特徴は、巨人と化す主人公・トドに人間としての意識と意思=自我があることです。
「進撃の巨人」で登場する巨人の多くは、自我を失い人間を捕食する「怪物」として描かれていました。
自分の意識や意思もなく、目にした人間を片っ端から食い殺していく。まさに人類にとっての脅威でした。
一方の「巨人獣」では、巨人と化してしまうトドには自我がある。
そして巨人化した原因が分からず、「なぜ、こんなことになったんだ⁉︎」と苦悩する。
そして人間だから、いろいろな生理現象がある。でも、巨人の生理現象はトンデモなく規模が大きいから、社会に多大な影響を及ぼす。
影響を抑えるため新宿御苑に移動することになるけど、移動するだけでも社会に大混乱を起こしてしまう。
トドは「社会に迷惑をかけてしまっている」と申しわけなく思うけど、どうすることもできない。
申しわけなく思っているのに、機動隊や自衛隊が攻撃してくる。それでも無抵抗で人を殺めることはしない。
人として苦悩する巨人の描き方が、めっちゃ素晴らしいんです。
2.突然出現した巨人の脅威に混乱しまくる社会のリアルさ
★食事の量がハンパない!
「巨人」や「巨大怪獣」が登場する漫画や映画、アニメなどでは、巨大な怪物が暴れまくり、街中を壊しまくります。
一方「巨人獣」では、巨人獣自らによる破壊シーンは中盤まではなし。何しろ巨人獣のトドには自我=意識があるから。
でも巨大であるが故に、つまづいたりして建物を破壊してしまったり、街に影響を与えてしまう。
「確かに大きいと、そうなる可能性があるな」と納得してしまうほどリアルなんです。
弁当屋「ことりや」は軽トラで駆けつけ、巨人獣に食事の提供を申し入れる。軽トラの荷台は、お米や肉、野菜がたっぷりな「車ごと幕の内弁当」。巨人獣はスコップをスプーン代わりにして食事を味わう。
身長約1・7メートルから30倍の約50メートルになった巨人獣の胃袋は、やはり約30倍に。1食は約2万7000人分となり、ちょっとした町の総人口が食べる量に相当する。食事は1日2回として、お米=トラック10台分、水=約5万リットル(一升瓶で約2万8000本)。くだもの、野菜がトラック5台分、さらに肉や魚も…。
でも、1日だけでトンデモない量。この状況がずっと続いたら…。
そして、さらに深刻な問題が食事後に訪れるんです。
★生理現象で「巨人獣害」に
しっかり食事をすれば、当然ながら出さなきゃいけなくなります。
巨大になったとはいえ、巨人獣は人間であり生物。食事と対極の排泄という生理現象があるんです。
アパートから近所の児童公園に移動した後、巨人獣は尿意に襲われる。我慢できずたれ流し、砂をかけて排尿の後を消したが、季節は真夏。辺り一面に尿のニオイが立ち込めて「まるで動物園みたいだ」とクレームが上がった。
巨人獣は便意にさからえずプールの中で踏ん張り、25メートルのプールいっぱいに伸びる「大」を排泄。水の中ながら、真夏の日差しに照らされたプールから漂うニオイが強くなっていく。プールの「大」は水に溶け始める。巨人獣がバランスを崩しプールの中で倒れると「大」混じりの水が周囲に飛び散って…。
そのたびに発生するトンデモないニオイに、住民から「臭気公害だ!」との声が。
「獣害」ならぬ「巨人獣害」に、人々の不満と不安は高まっていきました。
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巨人の手にかかれば歩道橋もこんな感じに… |
★移動の際も「巨人獣害」が…
巨人獣が住宅街に居続けるのは、さすがにキビシイ…。
政府は巨人獣がいても周囲に影響がない場所として新宿御苑、さらに晴海に移動させることを決めました。
でも、この移動がメチャ大変。都内の街と道は結構入り組んでいて、巨人獣には箱庭のようで歩くには狭すぎる。
歩道橋や電線がたくさんあって、それをまたいだり、くぐったりするのがひと苦労なんです。
しかも巨大化する前からトドは近眼で、巨人になっても目が悪い。
足が歩道橋に引っかかって壊したり、電線の下をしゃがんでくぐろうとしたらバランスが崩れて線が切れたり。
巨人獣に帯同する自衛隊員が広い場所に排泄用の穴を掘るが、真夏の日差しの下で大穴を掘る作業は過酷そのもの。移動中のトイレでも「巨人獣害」が発生するから、都民から抗議の声が上がる。巨人獣もそんな自分にむなしさを覚え、自決しようと東京湾へ向かうと「勝手に動くな」と自衛隊に攻撃される。
その後、大阪に出現した女性の巨人獣を救うため西に向かいます。
そんな巨人獣たちの人権を認めていたはずの政府が、密かに裏切るんです。
3.昭和20〜40年代の社会と世相が反映された世界観
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女性の巨人獣・マリ子は悲惨な最期を遂げる… |
★巨人獣と重なる「ゴジラ」
「巨人獣」は昭和46(1971)年に発表された作品なので、当然ながらストーリーや世界観には昭和のテイストが漂っています。
そして昭和という時代の社会や世相がメチャ反映されていて面白い。昭和に興味がある人ならホントに楽しめる作品なんです。
例えば、巨人獣が移動するために都内を練り歩く姿。そして東京湾に入水して静岡に流れつき、大阪に向かう姿。
そんな巨人獣の姿は、日本が生んだ怪獣ヒーロー「ゴジラ」が重なるんです。
特撮の怪獣映画「ゴジラ」シリーズは1954(昭和29)年に第1作が公開されて以来、昭和の怪獣ヒーローとして君臨しました。
第1作でゴジラは水爆実験の影響で、古代の恐竜が50メートルの大きさに変ぼうした怪物、破壊神として描かれています。
身勝手な人間に鉄ついを下すように、海から日本に上陸。文明を象徴する東京タワーなどの巨大ビルなどを踏みつぶしました。
一方の巨人獣もストーリー後半で政府の裏切りにあい、ある目的(後述)を果たすために東京へ上陸し、街を恐怖に陥れました。
ただ巨人獣は自ら街を破壊しない。自衛隊の攻撃にも耐えて、業火から逃げ遅れた子供たちを助けさえするんです。
昭和40年代は戦後の混乱が落ち着き、人々が平和な日々を過ごしていた時期です。
そんな平和が再び戦火で崩れ去る恐怖を、心の中に抱えていた時期でもあります。
ゴジラと巨人獣は、いずれも「恐怖の再来」を象徴する怪物として作品に反映されていると思うんです。
ゴジラは人間の身勝手さに鉄ついを下す「破壊神」として描かれている。
一方の巨人獣は、人の身勝手さを戒める「人間」として描かれている。
このコントラストが、昭和生まれのオジサンの心に刺さるんです。
★タンカーと第五福竜丸
「船をかしてくれれば、俺たちは日本をでていく」と訴え、政府も了承。全長380メートルで世界最大の原子力タンカー「栄光丸」を改造し、2人を沖のトリシマ近くの無人島へ運ぶ。ある朝、船内には船員がいなくなり、タンカーは同じところをぐるぐると周回している。トドは船の原子力エンジンに時限爆弾が仕掛けられているのに気づくが、爆弾が作動し原子力エンジンも大爆発を起こした。
タンカー(船)と核爆発と聞くと、昭和生まれの方なら「ビキニ環礁事件」を思い出すんじゃないでしょうか。
1954(昭和29)年3月に米国が行ったマーシャル諸島ビキニ環礁での核実験で、日本の漁船「第五福竜丸」が被ばくした事件。
この事件は前述した「ゴジラ」の制作にも大きく影響したそうですが、「巨人獣」にも多大な影響を与えているように感じます。
第2次世界大戦での広島・長崎への原爆投下とビキニ環礁事件。昭和の時代に生きていた人たちには、まさに悪夢だったんです。
著者の石川さんは、昭和15(1940)年生まれ。少年時代に核の恐怖を直接耳にした世代です。
だからこそ石川さんは「巨人獣」に核の恐怖を反映させたのではないでしょうか。
しかも国民に迷惑をかける存在として、日本中で孤立していた「巨人獣」が被ばくしてしまうという悲劇的な表現で…。
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この手は10メートル級の巨人⁉︎ |
★黒幕と口封じ
タンカーの爆発は「不幸な事故」として発表されました。でも真実は、原子力エンジンを爆発させての巨人獣の暗殺でした。
巨人獣トドが東京に出現した際に発生した街中の大混乱は、政府に抹殺を決定させたんです。
船員たちは爆発前に密かに退船していて、帰還後は船長が「エンジンが焼き切れ、巨人獣にも危険を伝えて退船した」と報告。タンカーの出航前から口裏を合わせた出来レース=陰謀だった。
「船長、だれが(巨人獣を殺せと)命じたんだ? そいつはきっと日本一えらいやつだ。そいつの名前をいえ!」巨人獣の訴えに船長は良心のかしゃくに苦しむが、抹殺計画の黒幕から電話が入り「分かっているだろうな」と口封じされる。さらに船長宅に黒服の人物が現れた直後、船長は謎の拳銃自殺をはかる。
戦後まもない日本では、昭和電工事件など政官財界やGHQ(連合国軍最高司令部)を巻き込んだ疑獄事件がありました。
いずれも財界などから逮捕者が出たけど、疑獄の裏で絵を描いた〝本丸〟でお縄になった者はほとんどなし。
うやむやに終わった疑獄事件も、日本の暗部の体質としてストーリーに反映されていると思います。
★衝撃すぎるラストシーン
巨人獣は自衛隊の戦車や電流攻撃を受けますが、強じんな体で反撃します。
でも船長が亡くなったことを知らされ、失意に沈み街を彷徨(ほうこう)します。
そして石油コンビナートに到達すると、踏みつぶした配管からあふれ出したオイルに、ちぎれた電線からの火花が引火。
巨人獣は一瞬にして紅蓮(ぐれん)の炎に包まれるんです。
「グオオオ〜ッ」というおたけびを上げて、全身が焼かれる姿でストーリーは終わります。
これは、破壊兵器オキシジェン・デストロイヤーで体を溶かされ海中に沈んだゴジラ(第1作)の最期に匹敵する、壮絶なラストです。
そして、ラストシーンには「巨人獣第1部 完」と記されているんです。
きっと石川さんには「第2部」の構想があったのかもしれません。その構想のプロットが残されているのかは分かりません。
でも、もしプロットが残されているのなら、ぜひとも「第2部」を読んでみたい。
ここまで紹介してきた通り、「巨人獣」は「進撃の巨人」や日本の怪獣ヒーロー「ゴジラ」にも負けないSF人間ドラマです。
昭和40年代に誕生したストーリーは、令和の今読んでも心に刺さる魅力にあふれています。
その続編があるなら、絶対に読んでみたいと思います。
まとめ・昭和の世相が反映された衝撃の巨人漫画
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巨人獣のストーリーは令和でも衝撃的だ! |
ここまでSF巨人漫画「巨人獣」について紹介してきました。
そして「巨人獣」のストーリーの内容や結末など、この作品が持つ魅力について、
- 時代を先取りした「巨人漫画」の衝撃的ストーリー
- 突然出現した巨人の脅威に混乱しまくる社会のリアルさ
- 昭和20〜40年代の社会と世相が反映された世界観
上記の3つの魅力について、紹介&解説してきました。
「巨人獣」は昭和40年代に発表され、令和に入って再び注目を集めている「巨人が登場する漫画」です。
ここまで説明してきた通り、その内容は平成〜令和で大人気となった「進撃の巨人」に負けない魅力があります。そして、
「以前、100均で漫画が売っていてタイトルを見たことがあるけど、どんな内容なの?」
「だいぶ昔に読んだことがあるけど、話が完結していなくて…。最後はどうなるの?」
なんて疑問がある方は、この記事を読んでストーリーの内容や結末が分かったと思います。
そして、ぜひ「巨人獣」を手にとって作品のページを開いてみてください。
昭和という時代の世相が反映された、衝撃的な巨人漫画が楽しめますよ!
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