「あしたのジョー」は国民的マンガです |
85歳の大作家が描く「ちばワールド」の楽しみ方を解説する
スポーツ、学園、戦記、少女モノ etc。
幅広いジャンルで人気&ヒット作を世に送り出している大作家、ちばてつやさん。
「ビッグコミック」で休載中だったマンガ「ひねもすのたり日記」が、2022年2月25日発売の第5号で再開されました。
ちばさんは2021年11月に心臓の病気が見つかり治療されていましたが、ついに復帰!
2024年で85歳、現役!優しい線とあたたかみのあるタッチはさらにみがきがかかり、また楽しむことができます。
ちばさんは国民的マンガ「あしたのジョー」をはじめヒット作がたくさん。それだけに、
「ちばさんの代表作はなんですか?」
「ファンの人たちのお気に入り作品はなんですか?」
「あしたのジョー以外のオススメ作品を教えてください」
そんな悩める声がたくさんあるんです。
この記事では、ちばさんの数多い名作の中から読んでほしい作品をチョイス。
- 「あしたのジョー」
- 「ハリスの旋風(かぜ)」
- 「のたり松太郎」
上記の3作品について紹介、解説します。
ちばさんの作品を楽しむために、ぜひ読んでほしい名作ばかり。記事をお読みになれば作風と特徴が分かります。
作品のページを開けばもっと読みたくなる。〝ちばワールド〟の魅力にどっぷりハマってしまいますよ。
ちばてつやさんと3作品をチョイスした理由について
本名は千葉徹彌。1939(昭和14)年1月11日生まれで83歳。東京出身。
幼少期に移り住んだ満州(現中国)で終戦を迎え、帰国。高校時代にマンガ家を募集していた貸本出版社「日昭館書店」で修行。
試しに描くよう求められた作品をまとめた「復讐のせむし男」が貸本として出版。当時17歳でプロデビュー。
その後、少女マンガ雑誌で「舞踏会の少女」などの作品を執筆。
「週刊少年マガジン」で野球マンガ「ちかいの魔球」を連載し少年マンガの世界へ。次々とヒット作を生み出しました。
ちばさんは4人兄弟の長男。三男に「キャプテン」「プレイボール」のちばあきおさん、四男に「4P田中くん」の原作者・七三太朗さん。
2人は長兄のアシスタントを務めながら修行。プロデビューを果たしました。
ちばさんは多くの名作を世に送り出し、現在も「ひねもすのたり日記」を連載中。
2022年1月に病気の治療を終え退院。リハビリをへてマンガ制作に復帰。
ブログ「ぐずてつ日記」で再開作品の一部をアップ。ファンへ「いつも読んでくれて感謝」との言葉を添えられています。
そして2024年(度)、文化勲章を受章されています。
★3作品をチョイスした理由について
この記事でオススメとしてチョイスした3作品。
- 「あしたのジョー」
- 「ハリスの旋風(かぜ)」
- 「のたり松太郎」
いずれも、ちばさんの作風と特徴がメチャわかりやすいんです。
- 主人公はハチャメチャな暴れん坊で野生児。ちょいワル。
- 優しい線とあたたかいタッチで描く下町などの風情と日常感。
- 目や表情にこだわり、ていねいに描かれ魅力あふれるキャラクター。
ちばさんの主な作風と特徴は上記の3点につきます。
この3点が色濃く表現されている作品として、3作品をチョイスしました。
ここからは1作品ごとに紹介、解説していきます。
1.「あしたのジョー」
高森朝雄(梶原一騎)さんの原作。ちばさんが作画を担当したボクシングマンガ。
「週刊少年マガジン」1968年1月1日号から1973年5月13日号まで連載。
コミックスは全20巻。完全復刻版全16巻、文庫版全12巻、HGT版も全8巻。
アニメ版も「あしたのジョー」「あしたのジョー2」と2シーズン制作。
劇場版アニメも2作品が公開され、実写版や舞台劇も大人気となりました。
★あらすじ
主人公は矢吹丈(やぶきじょう)。孤児院を飛び出し、腕っぷしで生きる野生児。
ジョーはドヤ街でヤクザと大乱闘を起こす。天性のパンチ力と闘争心。暴れっぷりを酔っ払いの丹下段平が目撃する。ジョーは元ボクサーの段平に素質を見いだされ、ボクシングを始める。だがドヤ街の子どもたちを引き連れ、かっぱらいやサギを犯す。暴れた末に逮捕され少年鑑別所に送られる。段平から届いたハガキには左ジャブの打ち方が記されている。〝通信教育〟でパンチにキレが増したのを実感。特等少年院に移ったジョーは段平のハガキで右ストレートを習得。作業中に元ボクサーの力石徹と激突。特製リングで対決しダブルKOの死闘を演じる。
★社会現象を巻き起こしたジョーのファイト
少年院に送られてきた段平のハガキ。「あしたのために、その1」などと記された〝通信教育〝でパンチを覚えたジョー。
段平をジム会長兼トレーナー、セコンドとしてプロボクサーになります。
両手をブラリと下げた「ノーガード戦法」、少年院でマスターしたフィニッシュブロー「クロスカウンター」。
常識を吹き飛ばし、自分を燃やしつくすような野生的ファイトで「リングのケンカ屋」として台頭。
ライバルの力石、南米の強豪カーロス・リベラ、世界王者ホセ・メンドーサ。強敵と死闘を演じる姿が描かれています。
ジョーのファイトは連載当時、大反響を巻き起こし若者に支持されました。
1970年に発生した日本初の航空機ハイジャック事件「よど号事件」。
当時の学生運動グループ「共産主義者同盟赤軍派」による犯行でした。
彼らは犯行声明文で「われわれは明日のジョーである」と宣言。
ジョーの燃え上がるように闘う姿が、学生運動の精神的支えになっていたんです。
★力石の読者葬
作品の前半のハイライトは、ジョーと力石の死闘。
ジョーがバンタム級の強豪ウルフ金串を「トリプルクロスカウンター」でKO勝利。
ジョーとの闘いを宿命と感じていた力石は対戦を申し出ました。
ただ2人の階級が違いすぎた。ジョーはバンタム級(53キロ)。力石はフェザー級(57キロ)。
しかも力石は本来ならウエルター級(66キロ)。フェザー級で闘うため10キロ近く減量していました。
さらにバンタム級に落とすため、食事や水も断ち限界を越えて減量。
しぼりきった体で力石は壮絶な闘いを展開し、ジョーをKO。試合後に死亡します。
過酷な減量、ジョーの強打、ダウンの際にロープに頭を打ったことによる脳内出血が原因。
1970年2月22日号の「マガジン」で力石が死亡し、ファンだった劇作家の寺山修司さんが葬儀の開催を提案。
1970年3月24日に雑誌の発行元・講談社で力石の葬儀を実施。イベント的な意味合いながらファンの思いが表れた現象でした。
力石が死にいたったことには、制作的な理由がありました。
ちばさんと梶原さんの設定確認の行き違い。2人が出会う場面で力石をジョーより大きく描いてしまったそうです。
体重が違うままプロで闘うのなら、死んでしまうほどの減量が必要。そのため「力石死亡」の設定になったそうです。
★「ジョー」はどちらの代表作なのか
スポ根に優しいアクセントを加えた手腕がすばらしい |
ドヤ街の公園。ジョーはブランコに乗って紀子が作ったサンドイッチを食べる。ジョーが好きな「ハムとレタスをはさんだ」やつ。ジョーは「うめえ」と味わう。
でも、優しいタッチで描かれる公園にただよう下町の情感。ジョーとの時間を楽しむ紀子のうれしそうな表情。
2人にとって大切なときが流れる、すばらしいシーンです。
「矢吹くん、もうボクシングやめたら」「ふつうの若者のように青春を謳歌(おうか)しようと思わないの?」
「(リングでは)ほんの瞬間にせよ、まぶしいほどまっ赤に燃え上がるんだ。そしてあとにはまっ白な灰だけのこるんだ」
物語にうるおいを与えるために、ちばさんが生み出した設定だったんです。
★マンガ史に刻まれた名セリフ「まっ白な灰」
「燃え尽きたよ、まっ白な灰にな」
梶原さんの設定は、ジョーはホセに敗北。試合には負けたがケンカに勝った。
かつて力石が所属したジムの会長で〝恋人〟白木葉子の家で、2人で幸せそうにひなたぼっこしているーという内容。
ちばさんは梶原さんに断りを入れ、ラストシーンを変えるためアシスタントや編集者と作品を読み返したそうです。
なにしろホセ戦はジョーが自分を燃やしつくす最後の闘い。
パンチドランカーになりながらリングに立ち、カーロスを廃人にしたホセのコークスクリューブローを何発ももらう。
意識が飛んだ状態なのに闘争本能で反撃する。目には力がなく無表情だけど、ホセがおびえるほど鬼気迫るものがある。
これ以上ないという表情で最後の力をふりしぼる。そんなジョーのラストの梶原設定は「こりゃないだろ」というものです。
ちばさんたちがたどり着いたのが、前述した紀子とのデートシーン。「まっ白な灰」というセリフ。
試合後のコーナーでジョーが満足そうな表情でつぶやき、目を閉じる。マンガ史に残る名シーンはこうして生まれました。
名シーンをめぐってファンには「ジョーは死んだのか」という論争がありました。
梶原さんの設定では、廃人になったかはわからないけどジョーは生きている。ちばさんの認識も「生きている」とのことです。
2.「ハリスの旋風(かぜ)」
ちばさんの作風が魅力的に展開された学園&スポーツマンガ。初のアニメ化作品です。
「週刊少年マガジン」で1965年16号から1967年11号まで連載。コミックスは全8巻が刊行。
「マガジン」での連載と連携してアニメ版も1965年5月から1967年8月までフジテレビ系で放映。
作品タイトルの「ハリス」は、番組スポンサーだった「カネボウハリス」にちなんだもの。1971年にはカラー版も放送。
ただ「カネボウハリス」とのスポンサー契約が終わり、タイトルは「国松さまのお通りだい」と変更されました。
★あらすじ
主人公は石田国松(いしだくにまつ)。短気で暴れん坊の少年。
問題を起こし学校を退学させられたりするけど弱い者イジメは大嫌い。強い者をくじく男子。
国松の父は静岡で屋台のラーメン屋さんを営んでいた。でも国松が暴れて問題を起こすので、一家は東京に引っ越した。国松は名門ハリス学園の教師とモメてKO。乱闘を目撃した学園長が運動神経に注目。鍛えて矯正させるため入学させる。入学早々に同級生の剣道部員や不良と大ゲンカ。その暴れっぷりと腕っぷしを買われ、運動部から勧誘される。
★昭和のナイスガイ
国松は昭和のチビっ子たちのヒーロー、理想像でした。
チビだけどスポーツ万能、ケンカも強い。弱きを助け強きをくじく男気。国松が通ったあとは、さわやかな風が吹く感じ。
運動神経がメチャいいので野球部、剣道部、ボクシング部、サッカー部から「ぜひ入って!」と勧誘されちゃう。
国松は鼻をたかだかと上げて「入ってほしければ弁当を差し出すこと」。ちょっと偉そう。
サッカー部にいたときは、学園の理事長とモメて退学処分。サッカー部も解散の危機に陥る。でも全校生徒が処分の見直しを嘆願。国松も直談判して処分は取り消し。国松はサッカー部を全国大会で優勝させて理事長をもホレさせる。
ちばさんのスポーツシーンは、スピード感あふれるシャープな線とキャラの心境がわかる表情で描写。
日常シーンでは優しくてあたたかみがある線で描いた背景に、下町の風情がただよう。ちばワールドが展開されています。
★ちば作品のプロトタイプ
「ハリスの旋風」は前述したように多くのスポーツが登場。その後のちばさんの作品につながるプロトタイプといえます。
国松が活躍したボクシング部。ちばさんは国松のファイトシーンを描くうちに本格的ボクシング作品への挑戦を決意。
国民的マンガとなった「あしたのジョー」を生み出すきっかけになりました。
暴れん坊の国松は、野生のケンカ屋・矢吹丈に生まれ変わったといえます。
そして剣道。ちばさんは竹刀での闘いに特化してスポーツ&学園モノを生み出します。
「おれは鉄兵」は「週刊少年マガジン」で1973年33号から1980年20号まで連載。アニメ化される人気作となりました。
3.「のたり松太郎」
「ビッグコミック」で1973年8月から1993年6月、1995年10月から1998年5月まで連載。
20年以上にわたって続いた長期作品のコミックスは全36巻。叢書(そうしょ)版8巻、文庫版は全22巻。
1977年に小学館漫画賞の青年一般部門受賞、日本漫画家協会賞の特別賞に輝きました。
アニメ化もされ原作に基づいたOVA版が1990年に1ー3巻、1991年に4−5巻が発売。
テレビアニメも「暴れん坊力士!!松太郎」のタイトルで2014年4月から9月まで、テレビ朝日系で全23話が放送。
ハチャメチャな主人公が大相撲界に飛び込み出世、成長していく物語です。
★あらすじ
主人公は長崎にある炭鉱の町で育った坂口松太郎(さかぐちまつたろう)。
松太郎は中学で3年も留年し19歳になっても通学。勉強はせずテストも同級生の答案を丸写し。先生も黙認している。しょっちゅう職員室に呼び出されるが喜んで出頭。美人の南令子先生と会えるから。見かねた担任の先生が松太郎を連れて街で就職活動。途中で入った食堂で松太郎は巡業で来ていた力士と大ゲンカ。力士にぶちのめされるが、松太郎は巡業会場へ乗り込んで力士にリベンジ。トンデモない怪力と暴れっぷりに相撲部屋の親方たちがほれこんで、松太郎をスカウトする。憧れの令子が教師をやめて実家の東京へ。松太郎はそばにいたいため、令子の自宅に近い「雷神部屋」に入門する。
★強烈なアウトロー像と下町の風情がマッチ
ここまで紹介した2作品が掲載された「週刊少年マガジン」は、当時はチビっ子から大人までが読者層。
「のたり松太郎」は青年誌での連載だけに、松太郎のアウトローぶりが強調されています。
松太郎が入門した「雷神部屋」と街には、下町の風情がただよう。ちばさんの作風が満ちあふれています。
矢吹丈、石田国松。ここまで紹介した2人のヒーローも暴れん坊でケンカっぱやいけど、イケメン。
松太郎はイカツイ無頼もの。ボサボサの髪の毛。ヨレヨレの服、着物。
入門早々に兄弟子たちと大ゲンカ。くわえタバコで反省なし。わが道を行っちゃってる男。
このアウトローぶりがスゴく、カッコいい。
学校を卒業し自分の道を探している人。周囲と合わせて仕事をこなすむずかしさに悩む人。
自分だけの力でわが道を行く松太郎は、最高のヒーロー像です。
松太郎が暮らす雷神部屋のある東京の下町の風景も、アウトローにマッチしている。
新弟子のころに通っていた相撲教習所までの道は未舗装。道端から立ちションすると、下にあるトタンに当たってジョロロ〜。
1970年代の東京の情感がただよっていて、松太郎の息づかいと日常感がリアルに感じられるんです。
★土俵での白星に命をかける力士たち
松太郎のシコ名は「荒駒」。相撲経験はないけどアマ相撲の実績者に許される「幕下付け出し」でデビュー。
トラブルを起こしたり、「雷神部屋」を破門されて「伊勢駒部屋」に移籍したり。
自力を発揮して幕下、十両、幕内と出世して優勝力士にもなる。でも、懸賞金がつかないとやる気をなくしたり。
それでも一人前になり憧れの人とも…。松太郎は〝のたりのたり〟とマイペースで長く活躍する力士になる。
松太郎の力士としての成長の過程を読んでいるとワクワクしてくるんです。
ストーリーでは、相撲界の内情も紹介されています。
新弟子時代の松太郎が通った相撲教習所。なじみがうすいところですが、新弟子がどんなことを習っているのかわかる。
部屋の兄弟弟子たちが土俵で生き残るために奮闘する姿や、相撲への思いも描かれている。
松太郎のアウトローな生き方を楽しみながら、相撲界のことも知ることができる。
相撲ファンはもちろん相撲や力士に興味のある方は、「のたり松太郎」をお読みください。
まとめ・いまだからこそ読んでほしい作品
ちばさんのヒューマンストーリーを読んでほしい |
- 「あしたのジョー」
- 「ハリスの旋風(かぜ)」
- 「のたり松太郎」
いずれも、ちばさんの作風と特徴である、
- 主人公はハチャメチャな暴れん坊で野生児。ちょいワル。
- 優しい線とあたたかいタッチで描く下町などの風情と日常感。
- 目や表情にこだわり、ていねいに描かれ魅力あふれるキャラクター。
以上の3点がよくわかる作品です。
「ちばさんの代表作はなんですか?」
「ファンの人たちのお気に入り作品はなんですか?」
「あしたのジョー以外のオススメ作品を教えてください」
そう悩んでいる方は、この記事を踏まえてぜひ3作品をお読みください。
絶対にナットク、マンゾクしていただけます。
特に「あしたのジョー」。有名な作品で「いまさらなあ」という人もいるでしょう。
ただ古典といえるだけに、いまのファンの方は知ってはいても完読した人は少ないかもしれません。
読んだ方からは「最近のマンガにはない新鮮さを感じた」という声が多いんです。
魅力あふれるキャラの描写力と迫力のファイトシーン。あたたかい人情や下町の風情がただよう優しいタッチ。
若者を熱狂させ、社会現象も起こす。これほどインパクトのある作品はなかなかありません。
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